第11回 ケー・エス・ミュージック
東京芸術大学を卒業、ケー・エス・ミュージック・スクール設立。佐々木邦雄先生は、当協会指導法研究委員、聖徳大学音楽文化学科講師などを務める他、ソルフェージュ指導」を中心に全国で講座を行う。恵子先生は当協会課題曲選定委員、指導法研究委員、千葉大学教育学部講師を務め、ピティナでは毎年指導者賞を受賞、全国大会の審査も行っている。
今回は土曜日に行われている邦雄先生のBクラスと恵子先生の個人レッスンを同時に取材させていただいた。
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生徒さんたちがみなさん、仲が良いですね。
恵子先生:よく先生によっては生徒同士は交流しちゃいけないとまでおっしゃる先生もいるみたいだけど、私たちはそれが嫌で・・・
邦雄先生:そう。うちの教室では生徒同士がみんなオープンに仲良く「わいわい」やってもらっています。毎週この籠にお菓子を満杯にしても全部1日2日でなくなっちゃう。
恵子先生:待ち時間や休憩時間に「ボリボリ!」食べて、レッスンが終わったらまた食べながら、友達としゃべって帰っていく生徒もいます。
邦雄先生:普段は皆仲が良いんだけど、うちは半年に一度「ソルフェージュ大会」というのがあって、色々なクラスの生徒がそれぞれ刺激し合って上のクラスに行けるように頑張っています。
生徒さんも、ソルフェージュの方で1つクラスがあがればピアノの方にも力が入ってきますよね。1つクラスを上がる毎に、ピアノもソルフェージュもまた新しい目標を持ってやれるということですね。
恵子先生:やはり相乗効果はありますね。
邦雄先生:今のDクラスとCクラスでは、レベルが大分違うし、BクラスとAクラスでもレベル差があります。今Aが一番レベルの高いクラスです。
なかなかご自宅を生徒さんの為にここまで開放できるお教室は少ないと思うのですが・・・
邦雄先生:生徒の為は勿論ですが、良いレッスン環境を作る為にはどうしたらいいか考えたらこういう風になっただけです。
恵子先生:引越しをする時に間取りを考えて、1階は思い切って全部レッスン室にしました。
邦雄先生:引越しして8ヶ月ですが、前々からこういう教室にしたいと考えていたのではなく、このようなレッスン環境にしないとにしないと生徒が回らなくなってきたんですよ。窓は5重サッシで壁も防音仕様、玄関も防音にする等、近所に対する音の配慮はやはり大変でしたが今後のことを考えて必要不可欠と判断しました。レッスンで使っていないときは、練習室として貸し出しもしています。
家の設計も、邦雄先生ご自身がされたと伺いましたが。
邦雄先生:はい、そうです。また各部屋共、楽器の配置(計16台)やコンセントの位置、楽譜・CD棚をきちんと計算しないと、入りきらないんですよ。この家に決めた時に既に業者側の設計図は出来上がっていたのですが、白紙に戻してもらって全部自分で設計し直しました。
加藤さん:個人レッスンでもお世話になっているのですが、理不尽なところが一つもなく、人間的に魅力の深い先生ですね。(一同頷く)
武村さん:恵子先生はレッスンのときと普段のギャップが激しくて、姉御のようについて行きたくなるような先生なんですけど、怒る時はすごいのでレッスンの前は心臓が飛び出しそうになります。
吉原さん:でも先生方はそれぞれの生徒に合わせて、持っている能力を更に引き出そうとしてくださるので、こうして欲しいという要求を行ってくださるとだと思います。私は小学校3年生から習っていますが、お二人とも素晴らしい音楽家で、また人柄もすごく魅力的なので、みなさんが集まってくるんだと思います。
細川くん:邦雄先生はすごく気さくな先生です。
今村さん:そう。お二人の雰囲気がすごくよくて、あまり先生という感じを与えないんですよ。
レッスンを拝見して、和やかな雰囲気の中でかなり系統立てて指導されていると感じました。
邦雄先生:私はまず、4つの柱を常に思い描いています。それは
1、 楽譜を「視る」能力
2、音を「聴く」能力
3、身体で「奏る」能力
4、楽譜に「書く」能力 です。
そしてこれらの柱をつなぐ〈梁や筋交い〉に当たる部分が、音楽に関わる表記や表現の「ルール(規則)」です。これらを〈楽典・樂式〉〈音楽理論〉と表現しても良いでしょう。
なるほど・・・梁や筋交いがなければ1本1本の柱は意味がありませんね。
邦雄先生:何の分野においても、個別の名称やルールがあります。音楽もまずこれらのルールをマスターし、基本的に守っていける習慣を身に付けなければなりません。この能力が「基礎能力」だと思います。
ソルフェージュのレッスンは、音楽の基礎をマスターする為にこのルールを学ぶことが必要不可欠ということですね。
邦雄先生:そうです。そして、そのルールを学びながら、次に「なぜ、このルールが必要なのか?」ということを考える人になることですね。
また、レッスンで使用している教材全てがオリジナル(自作曲)と伺いました。
邦雄先生:はい、そうです。グループレッスンで例えば聴音等は、誰か一人でもやったことのある曲はレッスンではもう使えません。自分としては当たり前の事をコツコツとやっているんだけど、「チリも積もれば何とやら・・・」でレッスン用の手作り課題はこれまでに2000曲を超えています。やはりソルフェージュの教材を全て自分のところで作っているのが最大の特徴です。
こういうレッスンスタイルは、なかなかアシスタントの先生にもすぐには真似できないみたいですね。今後アシスタントの先生を立派なソルフェージュの先生に育てていくのが私の次の目標です。
あとはグループレッスンをレベル別に行っています。その中で差があっても一緒にやってそれぞれのレベルでやりがいを持ってやれるというところだと思います。同じグループでもやはりレベル差があって、しかも一緒にやっても、それぞれのレベルでやりがいを持ってやれるというところがレッスンのノウハウです。これは例えば小学生を一堂に集めているようなもので、小学1年生から中学3年生まで同じ土俵でレッスンするのですが、小学生は小学生で目標をもってやれるし、中学生は中学生でまた別の目標とやりがいを持ってやれるよう工夫しています。
茉佑さんが恵子先生に習うことになったきっかけなど教えていただけますか?
茉佑さん:小学校3年生の時に、本格的にピアノをやりたいと思ったんですね。その前はヤマハに通っていたんですけど、個人の先生に習いたいと思って通い始めて、6~7年になります。 お母様:主人の上司の関係で恵子先生を紹介していただいて、それからずっと恵子先生にお世話になっています。
その頃から専門にピアノをやりたいと思ってらっしゃったんですか?
茉佑さん:そうですね。ずっとバレエとピアノをやっていて、時間が取れなくなってどっちにするか迷っていたのですが、やっぱりピアノが好きだと思ってピアノにしました。
お母様:1年ぐらい迷ってたわよね(笑)
その迷われている間、ご両親は何かピアノの方へ向くようアドバイスされたりしたのですか?
お母様:いえいえ。主人も私も特にどっちに進んで欲しいとは言いませんでしたので、自分で決めたようです。
恵子先生のレッスンはいかがですか?
茉佑さん:用意をしっかりしていかないと大変です。レッスンが終わってから、ありがとうございましたも言えずに落ち込んで帰ることもあったりします。でも、レッスン以外でもすごく温かくて、お母さんのような存在です。すごく厳しい面と、温かい面と両方あって・・・だから続けてこれたのだと思います。
先ほど拝見していたのですが、本当にすぐに横で実際に弾いてくださっていましたね。いつも恵子先生ご自身であんなに沢山弾いてくださるのですか?
茉佑さん:そうですね、いつもあのような感じで弾いてくださいます。
お母様:姿勢が良くないということで、先生に言って頂いてそれからビデオを撮っているのですが、レッスン中はいつも先ほどのように横で一緒に弾いてくださって、後で家で見直して改めて違いにびっくりしたりすることもあります。何より音が全然違うので(笑)
やはり何の指導であれ、百聞は一見に如かずですよね。
横であのように、レッスンの間中弾いてくださることが有ると無いとでは、やはり生徒さんのゆくゆくの演奏力に差が出てくるのではないかと思います。音にしてもフレーズの持っていき方にしても、姿勢、呼吸、全てが伝わるわけですから、やはりピアノ指導に演奏力が欠かせないということを改めて痛感しました。
『弾いてしまったほうが早い。』と恵子先生はさらっとおっしゃったが、自らの練習にも研磨を怠らない日々の積み重ねがなければ、生徒の目の前で大曲を弾いて聴かせることは楽ではない。若桑さんは、この夏のピティナピアノコンペティションでF級本選を1位で通過、全国大会に出場を果たした。
お二人でお教室をされている利点というのはどのようなことでしょうか。
恵子先生:ピアノだけで来ていても仕方なくて、楽譜を読んだり音楽をやる際にはソルフェージュの力は不可欠だと思っています。車の両輪みたいなものでね。だから私の生徒は大体ソルフェージュのレッスンを受ける事を条件にしています。ピアノが最近よくなったな...と思うとソルフェージュ能力も同時にすごく良くなっていたりしていますね。小さい頃から両方の能力を養ってゆくと効果的だと感じています。
邦雄先生:生徒さんにとっては普通、ピアノとソルフェージュと別々の先生に通うことが多いと思いますが、我が家は一箇所で済んでしまうから効率的だと思いますよ。また、生徒さん同士の今の状態や自分を客観視できるといった利点もあります。
お二人でこうして教え始めたのは何時頃からなのでしょうか?
邦雄先生:結婚する前、大学生の時からです。彼女のピアノの生徒を僕がソルフェージュ指導するという形がその原型で、もう20年以上になります。
恵子先生:学生の時に婚約をして、私の初めての生徒がソルフェージュを習いたいということで今の主人にお願いしたのが始まりです。
邦雄先生:誰からもソルフェージュレッスンの指導法というのは教えてもらった事がなくて、始めは「ソルフェージュ」の意味もわからず始めたんです。それこそ一人、二人、三人と教え始めて、今ではこんな形態に発展しました。何事も1から始めて改良、改良の連続が大切です。
恵子先生:大抵のソルフェージュの先生は視唱や聴音など、既成の曲を弾いて生徒に「取れた?」と聞いて、次に赤ペンで丸をつける先生が多いと思います。我々もそういう風に育ってきました。私はもっと楽しく、生徒がやる気の出るレッスンを目指して工夫しているうちに、現在の教室になりました。また最近10年間は、ヤマハを中心にソルフェージュ指導法の講演や講座などを依頼され、各地でその手法を公開してきました。
邦雄先生:先月(6月・7月)は、東京音大でも単発の講座をしました。
先生方のところに伺うたびに、邦雄先生も恵子先生も、本当に認め合っているというのが感じられます。
恵子先生:お互い分野が違うから、素直に聞けるというか。私は作曲科出身ではないし、主人もピアノ科出身ではありませんから、相手の専門に関してはお互い認めているわけです。もし専門分野が同じだったら、例えば「何?あの弾き方?」と意見が対立するんでしょうけどね。しかもお互い認めているということを口に出して言います。本当にそう思っているからなんだけど、口に出して言う事が大切なんです。
最後に恵子先生にお聞きしたいのですが、家庭と仕事の両立という面ではいかがでしょう。
恵子先生:やっぱり家庭を持っていることによって、ピアノ以外のこともとても良くわかります。 子供は親の思い通りにならないこともね。コンクールだからってピアノの演奏だけでは済みません。生徒の家庭事情や環境の違い、その生徒をここまで育てるのにどれだけ苦労してきたかというような面もわかるし、それぞれのかけがえのない子供達を、我々がレッスンさせていただくわけですから。
邦雄先生、恵子先生、本日は貴重なお話を本当に有難うございました。