ピティナ調査・研究

第09回 森山純音楽教室

レッスン室拝見
1. ワンルームに2つの空間
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5.3畳あるアビテックス内の様子。サッシ2枚で遮音はバッチリ。 椅子の後ろにも多少スペースがある。

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玄関を入ると、ずらーっと並ぶ過去の発表会の写真。全てパネルにして飾ってある。

都心部のピアノ指導者・学習者にとって、防音対策は大きな問題ですね。先生の教室の一角にはアビテックスの防音室が入ってますが、まずこれを設置した理由を教えて頂けますか。

森山:この教室は今から20年ほど前にスタートしましたが、当時はこのワンルームに2台ピアノを並べていました。生徒が多く1日に何人ものレッスンをこなさなければならないので、どうしても生徒を待たせてしまいます。次の生徒には後ろで待機してもらうのですが、話し声がうるさくてレッスンに集中できないし、こちらも「次の子を待たせてしまっている」と焦ってしまいます。親子一緒だと尚更です。そこで、もう1部屋設けることによって、待合室兼練習室として利用できるようにしました。設置したのは10年前です。

中の様子がわかるように、ドアの替わりに入り口にサッシを設けました。隣でレッスンしながら、防音室内で次の生徒が練習しているか監督できるんですよ(笑)。ぴったり締めてロックしてしまえば、となりでレッスンしても何ら支障がありません。締めれば、こうして普通に話も出来ますしね。

私の音楽教室では年3回くらい発表会やコンクール等があり、本番前はここでリハーサルをします。一度に25人くらいしか入らないので、3回に分けて行っています。その時はこの入り口のサッシを外し、防音室側を観客席に見立てて使っています。10年前は小さい子が大半だったので、このようなレイアウトにしました。しかし生徒が大きくなってきた今、2台ピアノのコンチェルト等を弾く時は、やはり前の方が良かったかなと少し後悔もします。でも、サッシを開ければ同時に演奏でき、2台ピアノの特徴を生かすこともできます。つまり開けても締めても利用できるのです。

防音室を設置することによって新たな空間が生まれ、「次の生徒を静かに待機させる」「練習させる」という2つの問題を一挙にクリアされた訳ですね。

逆の発想もあります。例えば既存の壁を取り払うことによって、アンサンブルやサロンコンサートも可能なくらい大きな空間を作ることもできます。空間の作り方一つで、ピアノ指導の幅が広がりますね。

2.音環境への意識の高まり

ところで生徒さんはどのような方が多いですか?

森山:やはり大都会なので、マンション等の集合住宅に住んでいる生徒が多いですね。ピアノの音には相当うるさく、ちょっとでも鳴らしたらクレームの電話がきた、というケースもあります。ですから生徒にはこれまでサイレントアンサンブルピアノを勧めてきました。電子ピアノは最初から絶対勧めません。私が使っているバスティンメソードは、手首の動きが重要なので、アコースティックピアノでないとそれが追求できないのです。もし仮に30万円あったら、電子ピアノを買うのでなく、それを頭金にしてアコースティックを購入するように勧めています。しかし普通のピアノだと、どうしても音が大きくなり近所に迷惑になってしまうので、サイレント機能付きのものが良いというわけですね。私自身もサイレントピアノを使っているので、信頼して紹介できます。

音環境に対する意識はここ数年で非常に高まってきました。特に集合住宅住まいの方が増え、防音対策は必須になっています。サイレント機能付ピアノはだいぶ効果を上げていますが、やはり生の響きを聞きながらピアノを弾きたいという欲求も多くありますよね。

森山:だいたいマンションだと夜8時くらいまでが限界なので、夜練習する場合はヘッドフォンを使ってもらっています。しかしヘッドフォンから流れる音と実際の響きはやはり違います。指導者の本音としては、生ピアノで弾いてその響きを感じ取ってほしいと思います。その意味で、アビテックスは良いですね。

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5.3畳あるアビテックス内の様子。サッシ2枚で遮音はバッチリ。 椅子の後ろにも多少スペースがある。

在来工法ですと、ドアを厚くすれば高音域をシャットアウトできるが低音域が漏れる、あるいはコンクリートは遮音性は高まるがコストが高い、等の問題がありました。アビテックスは、遮音性を高めながら音のクオリティを下げない工夫がされています。このレッスン室に設置されているのは、当時最高品質の5.3畳タイプですが、ここで練習している生徒さんは、どのように感じているのでしょうか。

森山:自分の音もよく聞けるし、集中して練習できるようですね。私の教室では親にもきちんとポリシーを理解してもらうため、レッスンに付いてきた時子供と一緒にアビテックスに入れて、グランドピアノの響きやタッチを体感してもらっています。そうすると、ピアノ=グランドピアノという図式が、自然と親の頭にインプットされるわけですね。
 でも今はまだグランドが買えない、あるいは防音の問題がクリアされておらず家で練習できないというご家庭も多いです。ですから例えば、学校や塾の帰りに気軽にレッスン室に立ち寄って、練習できるように開放しています。特に発表会前は練習させないといけないですから、積極的に貸し出ししていますね。使用は無料です。その効果があってか、年長者でもいまだに発表会に出てくれていますよ。

3.レッスン前の練習で、緊張を和らげて
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奥がアビテックス。こうして教室でレッスンをしている間、隣の防音室で次の生徒が練習をする。「レッスン前にグランドピアノを触ると、緊張が和らぐ」と生徒に好評。

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はい!はい!とリズムにのってフラッシュカードを出す森山先生。生徒も負けじと食いついていく。「よーし、次こそは!」

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グループレッスンではみんな元気が良くていつもにぎやか!お母様方はアビテックス内でレッスンの様子を見守る。防音室が観客席に早代わり。

生徒が現在60人ほどいらっしゃいますが、生徒がほとんどやめないのも、指導の良さと練習環境が整備されているのも大きいですね。

森山:練習不足の問題を解決するために、こうした練習場所の貸し出しは確かに効果がありますね。例えばレッスンの30分前に来て指ならしをすることもできます。1分でもこのレッスン室にいた方が「得」ということですね(笑)。

生徒さんにお伺いします。レッスン前に練習できると、レッスンでは伸び伸び弾けますか?

(生徒1)そうですね。やはりレッスン前は緊張するので、グランドで少しでも練習できるとあまり緊張せずに弾けます。防音室では雑音が聞こえなくなるので集中できるし、また自分の音がよく聞こえます。

お母様に伺います。現在自宅ではどのように練習させていますか。

(生徒2親)マンション住まいなので、隣近所は音には非常に敏感です。一応夜8時まで音だし可能という取り決めがあるので、その制約の中で練習させています。学校から帰宅後すぐに練習してくれれば理想なのですが、実際は遊びから帰ってきてからなので、夜7時か8時くらいになりますね。これからもっと練習時間が必要になったら、どうしようかと考えています。

集合住宅住まい、あるいは転勤の多いご家族など、なかなか防音環境を整えるのが大変ですよね。簡単組立てで、防音性能も良いモデルを求める声が高まっています。特に引越しの多い方や、お子様が小さくてピアノを続けるか分からない場合は、簡単なユニット式がいいかもしれません。

森山:自分はアビテックスを持っているから防音室には興味はありましたが、これまで生徒にまで勧めようとは思っていませんでした。けれども、生徒や親任せにしてしまうと、ピアノにしても知らぬ間に劣悪な商品をつかまされることがあります。だからしっかり理解してもらうよう、先生が生徒に教えてあげることも必要なんですね。自分が使っているので、生徒にもサイレントピアノを紹介していましたが、これからはピアノとアビテックスのセット購入を勧めても良いかもしれませんね。

先生はレッスン環境だけでなく、生徒の練習環境に関しても注意を払う必要がありますね。

4.レッスン・練習環境を整えるのは、生徒のため

森山:バスティンを始める前までは、導入から基礎に至るまでの指導法に少し不安がありました。もっと指導者として飛躍したいと思いつつも、なかなか突破口が開けませんでした。しかしバスティンメソードの存在を知り、研究会で活動を始めてから、仲間同士で問題意識を共有したり、一緒に研究をしたり、講座に先生を呼んで勉強したりと、交流の場を広げていくきっかけができたのです。
その結果、様々な情報が入ってくるようになり、同時に物事の優先順位も明確になり、自分の信念にも自信が持てるようになりました。
ステップでは日頃の指導法が問われるので指導者は大変ですが、何か始めない限りは何も始まらないのですね。昨年ステップに生徒を出したのは、研究会の先生方では私を含めて7名だけでした。しかし今回は20名の先生が共鳴して下さり、結局2日間で150名もの生徒を研究会から出しました。
暗譜が大変で、毎日練習しにきた子もいましたが、生徒一人一人が一生懸命弾いている姿を見て、ピアノを続けることの大切さを改めて実感しました。実は私も来月ステップを受けます(4回目)。

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教室にはミッションステートメントが掲げられている。1日の始めに、まずこれを読み上げる。

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張りのある声でテンポの良いレッスンを展開する森山純先生。その明るい人柄で、大阪バスティン研究会の牽引・まとめ役。生徒も伸び伸び音楽を楽しんでいる。

先生のチャレンジ精神、素晴らしいですね。「生徒は先生の背中を見て育つ」ということでしょうか。そういえば先生のレッスン室には指導要綱がパネルにして飾ってありますね。

森山:実は毎朝、声を出してこの指導ポリシーを読み上げています。いつも自分の信念に忠実に行動しているか、原点に立ち戻ることができるのです。私の原点は、「いつも生命を輝かせて生きる」こと。常に自分の人生において、他人に何ができるか、ピアノを通じてどのようなことを相手にしてあげられるか、これをすることで自分が、または相手が輝けるかを考えています。

生徒にとっては、カウンセラーのような役割でありたいですね。「自分が認められた」と実感することが、生徒が伸びる最大の要素です。実はステップ参加を勧めるのは、本番までの間、一人一人と密接な関係を持てることが理由の一つです。発表会と違って自分で運営・進行をする必要がないので、当日は生徒をゆっくり客観的に見られますし、親とじっくり話し合う懇親会の場にもできます。

「情熱」を行動レベルに置き換えて、生徒に、親に、そして指導者としての自分にとって良いと思うことを、着実に実践されていますね。防音室にしても、単なる遮音目的だけでなく、生徒のために練習環境をよくしたい、という意識が原点になっていることがよく分かりました。 今日は情熱あふれる教育理念をお聞かせ頂き、ありがとうございました。

(協賛:ヤマハ株式会社)