ピティナ調査・研究

第07回 池川礼子ピアノ教室

レッスン室拝見

鹿児島に移り住まれて10年。鹿児島の地にバスティンメソッドを普及させ、地域でも地元のピアノの先生方と共に室内楽研究会をはじめ、数々の講座を企画し、勉強の機会を多く作り出している池川先生。今回は、小学生から大学生までの生徒さんとご父兄にお集まりいただき、お話を伺った。

1.鹿児島に吹き込んだ新しい風

池川先生との出会いを教えてください。

竹之内:私がピアノの指導をしていまして、幼児の導入教育に悩んでいて、まだ娘がお腹にいた頃、何か良い教材はないかなと探していた時に、池川先生に出会い、「バスティンメソッド」というものを知りました。

池川:竹之内さんは、すぐに「これだ!」といって、全部バスティンに切り替えた人なんです。

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竹之内:私が指導していて、どうしても譜読みでつまづく子が多くて、自分の指導にも迷いがあったのです。その時に池川先生の講座を受けて、バスティンに飛びつきました。そして、娘が生まれて「我が子には是非この教育を・・・」と3歳の頃に先生にお願いすることになりました。

 

池川:私が鹿児島に来て約10年経ちますが、その当時はバイエルが主流でした。その頃から、私が使っているアメリカの教材「バスティン」の講座も、鹿児島で行うようになったのですが、講座にいらした先生方にアンケートを取ると、50人中バスティンを「知っている」先生が3名、「使ってみたことがある」先生が、なんと1名。
そんな現状ですので、楽器店の売り場にも、バスティンはもちろん無く、全て注文という状態でした。

そのような状態から、現在バスティン研究会のメンバー100名近くにまで広められたんですね。

池川:そうですね。毎月1回家に集まってこじんまり、というような勉強会も、6年にわたりおこないましたので(1年サイクルの単位で6回)、割りとコンスタントにゆっくり勉強してくださった先生が結構いらっしゃいますね。

草の根運動で広め、地域の先生も一緒に育てて行くという活動ですね。

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他に、植村さん、武田さんのお母様もピアノの先生でいらっしゃいますね。

植村:そうなんです。私は第1回目の講座を受けに行きました。母も父も指導をしているのですが、3人で全部違う教材を使って、同じ学年の子に違う楽譜を試したり、いろいろやっていたのですが、しっくり来ない部分がありました。娘の同級生がうちのレッスンにたくさん来ていたのですが、ひいき目にみても、1人遅れているし、こういう子に教えるのにも、バスティンが良いというのを講座の時にお聞きして。ですので、バスティンというものをとにかくやってみたいという気持ちが強くなり、講座の後、特に池川先生の連絡先はうかがっていなかったのですが、何とかしてコンタクトを取りたいと、講座のお話を頼りに電話番号を調べて・・・・。「4歳の子がいるのですが、1ヶ月に1回の講座では待てないので、その子を教えていただければ、私も一緒に学べるのですが」とお願いしました。

お母様が先生で、自分の子供をバスティンで育てたい、という方が多いんですね。

2.楽譜が読めない?

上之段さんは、大学2年生ですね。ということはずいぶん長く習っていらっしゃるんですか?

上之段:いえ、私は、前の先生がご病気になられて、高校1年からお世話になっています。

池川:上之段さんは、ピティナ・ピアノコンペティションをA1級から受けていたので、私のところに来る前から名前は知っていました。コンクールの常連だったので、鹿児島では有名人。センスがあって伸び伸びしていたので、印象に残っていました。

上之段:私も、池川先生のことはもちろん知っていましたし、まだ先生が鹿児島にいらっしゃらなかった時、ピティナの春季検定を受けて、審査員としていらしていた池川先生の講評をいただいたことがあります。

池川:彼女は高校の1年の時に来て、「私は楽譜、読めないんです」って言うんです。(笑)。最初きた時に。「何なの読めないって?今までやっていてなんで読めないの?」と思いましたが、レッスンしていくうちに、バレてきちゃった(笑)。横読みをしていないんです。一個ずつ下から上に、これとこれと・・・・というような読譜のやり方で。リスト等、音の多い楽譜はどうするの?という感じでした。

では、池川先生に習うまでは、譜読みが苦手という悩みがあったのでしょうか?

上之段:そうです。譜読みにすごい時間がかかったのです。

池川:今だから言うけど、それから横読みに慣れてきたのが大学入ってからくらいですね。それで爆発的に弾けるようになってきています。

では高校生になってからでも、楽譜を読む力をつけるということの調整がつくのですね。

池川:つくと思います。いまだにミスリーディングも多いですが、ぎこちなく見なければならない時間が減りました。だから結構たくさんの量を弾けるようになって、先日はコンクールで賞をいただいて、霧島音楽祭のダン・タイソンのレッスンまで受けることができたんですよ。

読譜の大切さとは?

池川:小さい頃はなんとなく感覚的に弾けてしまうのですが、大きくなると苦労しますよね。だから、できるだけ小さい年代から訓練することをお勧めします。
私のレッスンでは、導入の子供たちはグループから入りますが、耳からだけの感覚ではなく、あがる、さがる、音程、音の進む方向等、視覚的な横読みの訓練、音の並び方の訓練等をすると、目で楽譜を見た瞬間に手が動き、更に指の動かし方の訓練とマッチすると、ものすごく弾ける子に育ちます。
本当に練習しないのに、楽譜を読む力が高いので、すぐ弾けちゃう子などもいます。今年全国大会に行った生徒も、30分くらいしか練習していないんです。そのかわり、毎日練習し、演奏も本当に集中していますが。

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どのように、高校生から読譜の力をつけていったのでしょうか?

池川:基本的に、子供と同じです。例えば月に1回、レッスンの時だけ弾くという大人のグループの人も、たとえばこの線が「ソ」で下の線が「ミ」の線と一つ一つ覚えていたら大変ですが、楽譜の読み方の原理を教えれば、楽に弾けるようになります。上之段さんも、最初は細切れに弾いているような感じで音楽がつながらなかったですね。

楽譜が読みやすくなってきた実感はありましたか?

上之段:そうですね、、。今まではツェルニーも1回のレッスンで1、2曲しか弾けなくて・・・。

池川:ある程度の量を弾かないと、指も育たないですよ。今、上之段さんは、ショパンの課題曲のコンクールに出るので、ショパンのソナタ全楽章と、ショパンのコンチェルト、バラード、エチュード、ノクターンなどを一時に弾いています。

3.量を弾きこなしてテクニックをつける
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池川:植村さんも、最初レッスンにいらした時に、1冊しか持ってこなくて、でも丁寧な音の出し方を学ぼうとしていたので、それは良いことだと思うのですが、それでは指が育たない。一つ一つ曲のテクニックがが違うから、テクニックも自然とついてきます。耳から入ることもとても重要ですが、それと平行して読譜力もつけないと、ちょっと難しい楽譜になってくると、パタって読めなくなり、苦しんでしまうんです。植村さんは、今10倍くらいの量になっているかもしれないですね。

植村:10倍以上、もっとかもしれないです(笑)。

楽譜が楽に読めると、好きな曲もどんどん弾けてますますピアノが好きになりますね。

池川:幼稚園の年長さんの子が、あるときブルグミュラーを1週間で全部弾いてきました。最初全部やってきたことを知らずに、2曲目まで聞いて、「やっぱりお姉さんみたいに色んな事を考えて弾くのは難しいね」ってとりあえず終わらせたんです。そうしたら、レッスンが終わってから実は25曲全部弾いてきたんですってお母様がおっしゃるんですよ(笑)。1曲ずつさっと弾いている仕上がりの浅い状態だったのですが、それを聞いたとき、「あ、この生徒は楽しんで弾きたくて弾いているんだ」と思いました。お母様がピアノの先生なので、レッスンしている時は1人で勝手に弾いているんです。その子にとって、ピアノを弾くことが遊びになっているんですね。でも幼稚園であれだけの量を1人で見たことに拍手を送りたいです。

それは、バスティンで下地を作っているからこそできるということでしょうか。

池川:そうですね。もちろんバスティンの楽典的なことも分かってないといけないし、内容が伴っていかなければならない曲は、じっくり説明をします。逆に副教本などは、どこまでも弾いて良いというように、使い分けています。

4.更に耳を育てるためには?

池川:読譜の得意な子が育つと、注意しなければならないこともあります。調子よく弾くのは得意で、それなりにテクニックもついてきます。ただし、弾けてしまうから音に関心がない、上っ面だけの演奏で自分自身納得してしまい、どんどん雑になってしまうという危険性があります。

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耳はどのように訓練されているのですか?

池川:自分の音を聴くレッスンですね。私のレッスンは、弾いてきたものを聴くのではなく、予習はたくさんさせるのですが、そこにも重きをおいておらず、一番こだわっているのは、私が言ったことにどのくらい音で反応できるかということなんです。私が言ったことを分かって、理解して、その子の演奏が変わるのが分かるレベルになると、どんどん伸びてゆきます。それは聴く耳をもたないと、変わりませんよね。

決して量をやることだけに重きを置いているのではないのですね。

池川:そうです。量をやると余裕が出てきますよね。読譜で節約した時間を、もっと突っ込んだところにかけられます。

上之段:初めてレッスンに伺ったとき、ソナタを持っていったんですが、先生に「なんでそこにピアノって書いてあるのに、pで弾いてないの?」といわれて、「あ、そうか、p って書いてあるんだ」と初めて思いました。音符だけ読むのに必死だったんです。極端に言うと、フォルテとかピアノとか強弱も何も見ないで弾いていたんですよ。それから楽譜を深いところまで読む面白さを教えてもらいました。
フレーズの流れというのもわかりましたし、何故ここにフォルテがあるのかという理由等も考えるようになりました。楽譜を読んで、こういう風に弾けばいいんだという事が分かってきました。

5.厳しいけれど楽しいレッスン
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先生のレッスンについて皆さんにお伺いしたいと思います。植村さんはどうですか?

植村:ソルフェージュではごほうびシールを集め、50回でプレゼントがもらえます。400マスの練習シートも。それが凄く励みになるんです。

池川:ある子は、全部宝石箱にためてなるそうです。鉛筆とか使えるものをあげているんですけど、植村さんは400字詰の原稿用紙にお手製で作ってきました。