第03回 Klavier Musik Schule
独シュトゥットガルト国立音大卒業後、アメリカに渡り、コロンビア大学院で音楽教育を学んだ今井先生。留学時代は演奏活動も盛んに行う傍ら、外国人の子供たちの指導にも力を注いだ。日本に帰国後、留学時代の経験を生かし、英語、独語でのレッスンやコンクールの審査等も行い、緑豊かな田園調布の地で後進の指導にあたっている。指導は幅広く、小学生?趣味でピアノを続ける社会人まで、上手な時間の使い方をカウンセリングし、長く続けるということを1つの目的としたレッスンには定評がある。
本日は、ピティナの先生紹介を申し込まれた生徒さんにお集まりいただきました。紹介を受けて、最初に先生にお会いした時の印象は?
中村母:今年の2月から先生にお願いすることになったので、まだ1年も経っておりませんが、まず、年代物の2台のピアノが並んでいることに圧倒されました(笑)。最初お話に伺った時、先生が「アヴェ・マリア」を弾いてくださったんです。その時、先生の音を聴いて、なんて綺麗なんだろうと思いました。涙が出るぐらいに。帰り際に、子供と二人で鳥肌が立っていました。
実際のレッスンはどうですか?
中村母:5歳からピアノを習いはじめ、現在は小学校3年生ですが、今までの先生は、ピアノを演奏してくださるということがありませんでした。実際弾いてくださることで、耳で聴いて、視覚的に聴いて。
もちろん、言葉での解説もありますが、子供には言葉でいわれるより、「感覚」というものがわかるようです。
今井:中村さんは、少しずつ、細かいテクニック的なことやり始めています。こういう風に練習すると早く良くなるよという事を、曲の中からピックアップして教えています。いろいろなテクニックの要素がある作品を数曲ずつ選んでいます。
曲の中のテクニックを取り出して、練習方法を詳しく解説ということですね。
連弾なども取り入れていらっしゃいましたね。
今井:楽しく二人で遊んでみようか、という感じでやっています。連弾をすることによって、相手の音を聴くことが耳の訓練になります。呼吸、音楽のタイミング。相手の呼吸を掴みながら演奏できるようになってきます。
ソロも連弾も、曲を重ねて行き、どんどんレパートリーを作っていくということですね。
曲は先生が選んでいらっしゃるのでしょうか?
今井:相談しながら決めています。やはり、好きな曲というのもこの年齢から見つけて欲しいと思っています。
やはり、イメージがないと音楽は先へ進まないから、想像力の逞しい人ほど上手くなると思います。最初から要求するのは難しいと思いますが、自分はこういう風に弾きたいということを、レッスンを重ねるごとに身に付けていってもらいたいですね。今まで先生に言われたことが、応用が利くように。
新しい曲をもらったときに、「昔先生にこういうこと言われたな、この曲も、きっとこういうイメージじゃないだろうか」という感じに。
先程レッスンを見学させていただいた時も、皆さん先生の演奏をじっと見てらっしゃいましたね。
社会人のお二人は、最初の印象はどうでしたか?
高杉:私は3人くらいの先生に習ったことがあるんですが、ピティナで紹介していただいて、こちらに初めて来た時に、他の生徒さんを見学しました。今まで、私が受けたことがないようなきめ細かい指導だったので、音楽の表現方法、音色等を習えるのがすごく良いなと思ったのと同時に、とても自分のレベルが低いので、場違いのところに来ちゃったと心配しまいた。(笑)レベルの違いをとても心配していましたが、でも気さくな先生なので、細かい所からよく指導して頂いて、ますますピアノが楽しくなりました。
松村さんはどうですか?
松村:ピアノ自体は、実は5歳の時から一回も辞めずにきましたが、その中で ピアノが好きかどうかわからないという時期が何度かありました。今井先生に出会ったことで、「ピアノが嫌いなのでは?」と思っていたことも、全部覆されたんです。
ピアノが嫌いじゃないかな、と思っていた・・・?
松村:20年も続けてきたのに、もったいないという気持ちがどこかにあり、辞めるのだけは・・・と思っていました。ピアノが好きで続けていただわけではなかったんですね。譜面が読めればOKで、弾けば終わり、というのが空しくなってきて・・・。だから練習も嫌いだったし、同じ曲をずっとやるもの嫌いでした。
それがどのように変わってきたのですか?
松村:先生のところにきて、音楽性のこと等を解説してくださいますし、実際に先生が演奏してくださるというのが大きいです。ここは小さく、ここは大きく、それは書いてあるから分かりますよね。でも何か曲として上手くいかない。そのような場合は、先生が演奏してくださるんです。自分の中で、わかりやすく、理解しやすい方向に持っていってくださいます。
最初、先生を変えたのは、続けられればいいや、という気持ちだったのですが、今はもう辞められない(笑)
今井:二人は社会人なので、本当に忙しい中で続けられているんですよ。高杉さんは1回も休まずにいらしていますね。
松村:就職してからは、本当に辛くてやめたいと思ったこともありました。 でも先生はすごく理解してくださったということが続けている一因だと思います。
今井:お勤めの人はね、忙しいのが当たりですよね。レッスン室へ来て、1時間という、その時間を有効に使えば良いという事ですよ。
お勤めをされていて、練習時間はどのように取っていらっしゃるのでしょうか?
松村:私はまだ社会人2年目ですが、学生時代とのギャップがすごくて。疲れてピアノを触りたくないと思う時もあります。でも今井先生のレッスンは、「ここの所はやっておきたいな」と思えるようなことを教えてくださるので、それこそ仕事を早く切り上げて練習しようと思えるくらいです。
昔は、レッスンの前日に「ああ、練習していなから行くの嫌だな・・」と思っていました。今井先生は逆に「練習しなくていいよ」っておっしゃるので、気持ちが楽になります。
練習できていないというのは、自分が一番良くわかっていますし、自分の中では、ここ上手くなりたい、というのがあるので、なるべく触れる時は触るという感じです。
練習方法にもコツがあるのでしょうか?
今井:そうですね。やはり正しい練習の方法を知らないと、いくら家で時間をかけて練習していても、間違った方法をしていたら、無駄な時間があるわけですから。レッスンに来て、徐々に少しずつ少しずつ修正していくという感じでしょうか。
自宅で練習するときの為の手助けになるような事を、本当に細かくご指導されていますね。
今井:大人の人は自分でどうしたらよいか、というのは良くわかっているからほんのちょっとしたアドバイスですね。大げさに言うと、5分しか練習時間がないんだったら、5分をどのように使うかということが一番大切です。無駄に5分終わるか、それとも脳みそをフル稼働させて、「ああ、この5分は良かった」と思えるかですね。だから、自宅での練習も考えながら、レッスンにいらした時に音楽的なことも含めて、テクニックの練習方法、曲の理解等に努めています。
レッスンの時は1分たりとも気が抜けないという感じでしょうか。
松村:そうですね。気が抜けないというか、楽しい中で色々勉強できるという感じがありますね。非常につたない譜読みだったりで、先生に申し訳ない状態だったりすることも多のですが、そういう時は右左ばらして、その時に練習を兼ねて弾かせていただいたり。本当に無理なく楽しんでいます。
今井:ピアノは今日明日にすぐできるというものではないですよね。何年、何十年の積み重ねだから。最終的には自分との比較ですよね。人より上手く弾こうとか、そういう雑念を入れないということを大人の方には伝えています。みんな一人一人違うでしょ?腕の運びとか姿勢とか、全部違ってくると思います。
だからまず、人よりも上手く弾こうとか、あの人には負けたくないとか、そういう気持ちではピアノを弾かないでと良く言います。学生さんは、お勤めの方と違いますけどね。
皆さん仕事を持ちながら、お志が高いですね。
今井:そうですね。音楽を上手に表現するという事が一番の目的だから、どの生徒さんも一人一人レベルが違うし、目標も違うわよね。みんな上手になりたいという目標は同じですが、それをどのくらいの高さに置くかということがあります。いつも言う事は、自分ができる中で、精一杯きれいに仕上げるということです。最大限に上手に表現する。だからテクニックが無い場合、それを、「テクニックがあったら弾けるのに」じゃなくて、今これしかテクニックが無いけれども、奇麗に聞こえる、という風な仕上げをする。きれいだなあと、聴いた人がそう思えるように。
その中でテクニックも曲の中から取り出していって、徐々につけていく、という感じでしょうか?
今井:好きな曲を勉強して行く中で、いろんな勉強方法を伝えます。こういう弾き方をすると指が動くようになるよ、とか、強くなるよ、という例を取り上げて。昔みたいに順を追って、これじゃきゃだめっていう教材で固執してやってると、みんなに当てはまるとは限らないですよね。一人一人違う手をもっているし、違う筋肉の発達の仕方だし。だから、この生徒さんには何が欠点なのかをいち早く教える側が読み取り、この子にはこの練習方法が上達の近道だな、どこまでの訓練だったらOKかな、ということを見極めて指導して行きたいと思っています。
クラシックだけではなく、ジャズやポピュラーもレッスンされていましたね。
今井:そうですね。専門に行く人は課題があると思いますが、音楽を楽しみたい、ピアノが好きという人には、ピアノに向かう楽しみを取らないという事です。あんまりこの曲好きじゃないけれど、これをやらないと、という感じでやっても何も身についてこないと思います。出来あがる喜びに向かってピアノを練習するということが大切ですね。
レッスンの中で子供でも大人でも、本番で力を発揮するために集中力をつける訓練をされていると伺いましたが。
今井:そうですね。1曲の中でだいたい間違えそうな場所というのがわかってきますよね。そこを徹底的に取り上げて練習方法を伝えます。譜面が頭に入っていないと、真っ白になっちゃって、パニックになった時に全部最初から弾きなおす・・。これではだめですね。音楽は始まった以上、流れているから途切れちゃったらおかしいわけですよね。即立ち直って先に行くにはどうすればよいかということもやります。楽譜が頭の中にしっかり入っているかというのがポイントになるわけですが、手の加減で行ってしまうと、「まぐれ」ということが非常に多いのです。小さいうちから、どこからでも弾けるようにしています。指というのは、脳が命令して動くわけですから、頭を使いなさいと良く言います。
ホールなどを借りて本番前のリハーサルなどもされていますね。
今井:はい。レッスン室ではないところで弾くと、環境が変わるので緊張の練習になります。あとはホールでの音の響きとピアノの癖。ピアノは一台一台違いますから。
実際にリハーサルをしてどうでしたか?
高杉:スタインウェイのピアノを弾くの初めてだったので、ピアノがどういう感じが全く知りませんでした。当日行って弾いてみると、タッチは軽く、低音がすごくよく響いて、高音のほうは、しっかり弾かないと艶のある音が出せない感じで、とてもびっくりしました。先生がピアノの癖を解説してくださり、こういうのだったらこういう風に弾けば、とか、リハーサルから発表までの練習方法を細かく教えていただいたので、とても勉強になりました。特にバランスのことを教えてくださいました。
松村さんはいかがでしたか?
松村:弾いてみたら本当にメロディが鳴りませんでした・・。私は特に力が入りやすくて大きい音を出そうと思っても指が弱いので、硬い音になるのですが、メゾフォルテでメロディを練習しなさいというアドバイスをいただき、本番前の1週間意識してやりました。
舞台に出ることを勧められている理由は?
今井:最終的に一番難しいのは、自分に勝つという事です。自分自身、どこまで成長させるか、というのが一番難しいと思います。そういうピアノを弾いて欲しいと思っています。私は、ピアノの出した音を聴いて弾きなさいよ、って何度も言いますが、それが舞台に立った時に、いかに大事かという事がわかるんです。自分の身体が共鳴版になって跳ね返ってくるというくらいの余裕がないと。一音一音弾いていくということが大切だ思います。それが演奏です。演奏スタイルなのです。
ドイツで長年演奏活動をされていた先生ならではのご意見ですね。
今井:一度出した音は消しゴムで消せないですから、音を出す前にどのような運動で、どのような形で弾くと良い音が出るかということを掴まなければなりません。とても難しいことですが、レッスンに通う中で一つ一つ学んでゆくということですね。弾いちゃった、出しちゃった、失敗しちゃった・・じゃなく、弾く前に神経を使うこと。一番表情がでる為には、最初の一音をどういう手の位置、腕の運びで弾かなければ二音、三音と繋がっていかないか、という事を勉強しないといけないわけですよね。
生徒さんは、舞台を重ねる中で成長されてきたのでしょうか?
今井:どんな舞台でも人前で演奏するということは、絶対お勧めですね。みんな不思議とガっと上達するんですよね。何かはわからないけど、掴んで帰ってくるの。だから次新しい曲を弾いた時に、良い音で弾くようになるんです。だから、時間の許す限りでいいから、やってらっしゃい、という事をみんなに伝えています。
最後に、これからの目標をお聞かせください。
中村:結構いっぱいあるかもしれない(笑)。うーん・・・、難しい曲が弾けるようになりたい。今のうちに練習しておかなきゃ。
今井:良く分かってるね(笑)
高杉さんは?
高杉:そうですね、老後の楽しみまで持続させたいと思っているので(笑)、どんどん好きな曲を弾いて行きたいです。主人がチェロを習っているので合わせられたらいいなと思います。
素敵ですね。
松村:先生も良くおっしゃっていますが、ピアノを続けているとボケないそうなので、一生やっていきたいですね。曲は永遠に、無限にあるので、一生かかっても弾ききれないけれど、自分の中で憧れの曲や、今弾けない曲もたくさんあるので、いつかそれを弾けるようにしたいです。
ありがとうございました。みなさんすてきな夢を持ちながら、ピアノを続けていただければと思います。
今井:何よりも楽しんでやってるから良いと思います。嫌いになっちゃったら先生のせいだからね・・・・(笑)