ピティナ調査・研究

第5回 ピアノ指導の土台作り:コミュニケーションからはじまる信頼関係

今、悩める若手指導者へ伝えたい
ピアノ指導の土台作り:コミュニケーションからはじまる信頼関係
失敗から学んだ、人を知ることの大切さ

これまで私は、生徒や保護者との信頼関係について、そしてピアノ指導の土台について考えてきました。 今回は、その中でも特に大切にしている「人と人とのコミュニケーション」についてお話ししたいと思います。

私が体験レッスンで面接を重視するようになったのは、失敗から学んだ経験が原点にあります。 ただピアノを教えるだけでなく、その生徒に合った指導方法を考えるには、まず人となりを知る必要があると気づいたのです。

この話をすると、いつも思い出すのが音楽教師だった叔父の言葉です。「20代でわかることを10代でわかること、30代でわかることを20代でわかることが必要だ」と。 当時はその意味がよくわかりませんでしたが、叔父は続けて「1年でも早く大切なことに気づくことは、より豊かな人間になれる。 そのためには年上の人の話をしっかり聞け」と教えてくれました。

この言葉のおかげで、年上の保護者の方々の話にも真摯に耳を傾けるようになりました。 すると、上下関係ではない、人と人との関係が自然と築かれていきました。 ピアノ以外の話をすることで、かえってレッスンの質が深まっていったように思います。

レッスンに込める思い

実は、私のレッスンには「挨拶に始まり挨拶で終わる」という譲れないルールがあります。生徒の挨拶の様子から、その日の調子を察することができるからです。 元気のない挨拶をしてきた生徒には「何かあった?」と声をかけ、時にはレッスンよりも心のケアを優先することもあります。

生徒の目線に立ち、保護者の立場に立つこと。これは簡単なようで難しいことです。 でも、まずは一人の生徒から、相性の合う方から始めてみればいいのです。全ての生徒に一度にできなくても構いません。

若い先生方の中には「レッスン時間中に雑談をしてはいけない」と思い込んでいる方もいるかもしれません。 でも、30分や45分のレッスンの中でも、コミュニケーションの時間を持つことは大切です。ただし、それには保護者との相性も見極める必要があります。

私自身、コミュニケーションが上手くいかず、6年間教えた生徒が「辞めます」の一言を残して去っていったこともあります。 全ての方と相性が合うわけではありませんが、諦めずに向き合う姿勢は大切だと学びました。

これからも具体的な指導方法やエピソードをお話ししていきますが、まずは「人と人との出会い」から始まるということを覚えておいていただけたらと思います。 ピアノが弾けることと、教えることは別物です。 生徒や保護者と向き合い、互いを知ろうとする気持ちがあってこそ、良いレッスンが始まるのだと思います。

一緒にがんばりましょう。

厚地 とみ子
顔写真
あつじ とみこ◎熊本音楽短期大学(現平成音楽大学)ピアノ科卒業。厚地音楽教室及びトゥジュール・アンサンブル主宰熊本よか音ステーション代表。ピティナ・ピアノコンペティションに於いて、1995年より連続指導者賞受賞。2017年に4月に熊本震災復興祈念コンサートに出演。2018年4月にピティナ・ピアノ指導セミナー・指導法紹介ポスターセッションプレゼンターを務める。地元での福祉施設への慰問演奏を積極的に実施。ピティナ・ピアノコンペティション、日本バッハコンクール、ブルグミュラーコンクール、ショパン国際ピアノコンクールin Asia、日本クラシックコンクール、九州音楽コンクール、ルーマニア国際コンクール、ピアラピアノコンクール、さいたコンクールの審査員を務める。これまでに、ピアノを清川公子、出田敬三、松崎伶子、室内楽を多喜靖美、各氏に師事。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会正会員。
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