No.10 伝グラーフ
コンラート・グラーフ(Conrad Graf 1782-1851)は19世紀ウィーンを代表するピアノ製作者である。
南ドイツ出身のグラーフは16歳でウィーンに移り、シェルクル(J.Schelkle)のピアノ工房に弟子入りした。1804年の親方の死後、その未亡人と結婚して工房を引き継ぐ。1824年には宮廷ピアノ製作者の称号を取得。
1835年の第1回ウィーン工業見本市のピアノ部門で金賞を受賞するなど、彼の楽器は一級品として知られていた。
グラーフはハンマーヘッドにより多くの皮を巻くことによって、音に丸みを持たせることに成功した一方、アクションにおいては伝統を忠実に受け継ぐことを重んじた。また多くの製作家が金属の支柱をフレームに導入する中、伝統の音色を守るため、1840年まで木製フレームを固守した。
幼少期のシューベルトは父親からグラーフの初期(5オクターヴ)のピアノを贈られている。その後もウィーンの伝統を受け継ぐグラーフ製ピアノには生涯信頼を寄せたようだ。
1825年、難聴の進んだ55歳のベートーヴェンに特製のピアノを貸与、晩年のベートーヴェンがいつも使っていたという。このピアノは低音の1オクターヴ以外全ての音に4本の弦が張られ、集音装置をもっていた。
また、シューマン夫妻の結婚祝いに39年製のピアノを贈っている。
ショパンは29年ウィーンでのデビューリサイタルにグラーフのピアノを演奏して成功を収めた。 そんなグラーフ製のピアノと云われるこの楽器は、ダンパー、モデラート(弦とハンマーの間に布を挿入させることで、柔らかい音を得る)、ファゴット(羊皮紙が低音部の弦に触れ、ビリビリと音を出す。ファゴットのダブルリードを模した音)の3つのペダルを持つ。
また顧客からの注文であったのか、白鍵に貝、黒鍵にべっこうが貼られ、鍵盤はまばゆいばかりに輝いている。
重厚な外観とは裏腹にタッチは非常に軽やか。明るく、温かみのある音色は、音楽の都ウィーンの、当時の人々の美意識そのものなのかもしれない。(解説:宮崎 貴子)
楽器種別 | ピアノPiano |
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製作者・製作年 | 伝 C.グラーフ(ウィーン) Attributed to Conrad Graf(Wien) 1819~1820?年頃 |
概要 | [全長] 242.0cm [鍵盤数] 80鍵 [音域] C1~g4 [アクション] はね上げ式 シングルエスケープメント |
- 取材協力:浜松市楽器博物館
- 浜松市楽器博物館 所蔵楽器図録
- 「ピアノの歴史」小倉貴久子著(河出書房新社)
- CD:レクションシリーズ16 「シューマン夫妻の室内楽 ~伝グラーフ・ピアノによる~」