No.6 クラヴィコード
クラヴィコードの歴史は長く、14、15世紀まで遡ることができる。
鍵盤を押すと他端に付けられたタンジェントと呼ばれる真鍮片が弦をたたいて(押し上げて)音を出す、シンプルな構造。 音量は小さく、蜂の飛ぶ音と比べる記述もあるほどだが、タッチの微妙な変化がダイレクトに弦に伝わるため、繊細で自在な感情表現が可能で、最もカンタービレな演奏が可能な鍵盤楽器である。
さらに、音が出ている間、弦に触れているタンジェントに指の振動を伝えることで、鍵盤楽器としては唯一、ヴィブラートをかけることができる。
クラヴィコードのタンジェントは、弦を打つ役割と音程を作る役割をするため、1本の弦からはタンジェントの数だけ、ピッチを得ることができる。
そのためクラヴィコードには、1本の弦を複数の鍵盤で共有する「フレット式」、一音につき1本の弦が充てられた「フレットフリー式」がある。弦を共有する音は同時には鳴らすことができないため、17世紀後半になると、同時に鳴らす可能性の比較的低い半音同士に弦を共有させる「ダイアトニック・フレットフリー式」(全音階で弦を共有しない)というものも出てきた。
弦の数が減ると箱も小さくなる。小型で持ち運びがしやすく、旅行用にも重宝された。
P.リンドホルム(Pehr Lindholm 1741-1813)は、18世紀後半のスウェーデンで人気を誇ったクラヴィコード製作者である。 この1788年製の楽器はフレットフリー式。クラヴィコードの中ではかなり大型のタイプで、一音に対して2本(中・高音域)または3本(低音域)の弦が充てられている。
バロック・古典派の音楽家のみならず、メンデルスゾーン、リスト、ブラームスなどロマン派の音楽家たちもクラヴィコードを愛奏した。
J.S.バッハはクラヴィコードを、「練習や個人的楽しみのためには最上の楽器」とし、息子のC.P.E.バッハも自著の中で、「クラヴィーアのよい演奏表現を身につけるためには、クラヴィコードが不可欠」と述べている。 (解説:宮崎 貴子)
楽器種別 |
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製作者・製作年 |
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概要 |
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- 取材協力:浜松市楽器博物館
クラヴィコードはバロック時代からロマン派時代という長い期間にわたって、音楽家たちに愛されてきた楽器です。バッハやショパンをはじめとする多くの作曲家が「音楽性を養える楽器」として高く評価しています。また、ベートーヴェンの中期のソナタまでは「クラヴィコードでの演奏も可能」として出版されていました。(文責:ピティナピアノ曲事典編集部)
- 浜松市楽器博物館 所蔵楽器図録
- 「ピアノの歴史」小倉貴久子著(河出書房新社)
- CD:コレクションシリーズ23 「クラヴィコードの世界 ~秘められた音楽領域を探る~」