ピティナ調査・研究

クイズ:ベートーヴェンと編曲

音楽へのとびら~ピティナ・ピアノ曲事典 Facebook アーカイヴス
クイズ:ベートーヴェンと編曲

掲載日:2013年3月16日
執筆者:丸山

編曲は作曲者自身によるもの、他者によるもの、両方ありますが、いずれにせよ、別の媒体へ移すとき、声部をどのように配分するか、原曲の音符をそのままうつすか、それとも新しい対旋律に書きかえてみるか、など、編曲の姿はその目的や編曲者のセンスによって変わってきます。

ところで、ベートーヴェンは自作品がどのように編曲されるかということに、非常に強いこだわりを持っていました。その程度たるや、他の人が自作品を編曲した時にそれにチェックを入れ、不満な場合に自ら編曲し直すほどでした。

彼は自作品を自ら編曲することは少なかったようですが、数少ない自作編曲の中にピアノ・ソナタから室内アンサンブルへの編曲、それも原曲の調を半音上げての編曲があります。ピアノ・ソナタ第9番の編曲はその例ですが、それはどのような編成のための編曲でしょうか。

クイズの答え

掲載日:2013年3月18日

ベートーヴェンの編曲に対するこだわりがよくわかる自作編曲。クイズの答えは、ピアノソナタ第9番の作曲者による弦楽四重奏編曲(Hess番号34)です。その編曲手法の特徴をいくつか取り上げてみましょう。

第一に注目されるのは、編曲が原曲のホ長調からヘ長調へ移調されていることです。これは、属音(ヘ長調ではハ音)を弦の開放音で響かせるためと考えられています。
編曲では原曲が忠実に写されるのではなく、新たに動機が加えられるなど、原曲の声部進行が変えられているところも多々あります。例えば、編曲では主要動機が各声部に、原曲にはなかったところにも散りばめられています。これによって、楽章内の各部分が原曲以上に密に関連づけられるだけでなく、同時に、アンサンブルに適した、声部同士の動機の掛け合いも生まれています。

ベートーヴェンの編曲手法には、こうした楽器やアンサンブルの特性からは説明できない特徴もあります。例えば、強弱指示を変える、楽句や楽節の前半と後半で伴奏音形を変え、コントラストと躍動感を与える、など、音楽の質そのものを変える変更も実に多いのです。

原曲と編曲を聞き、その構成の違いを比べると、編曲は作曲家にとって、ピアノソナタとは別の作品の姿を試みるチャンスだったとも考えられます。

  • 弦楽四重奏版の楽譜は下記サイトで閲覧できます。EUではダウンロードが禁止されているため、リンクのみ掲載致します。日本での閲覧は問題ありません。

弦楽四重奏版の楽譜

ウィーンの観光名所の一つ「パスクァラーティ・ハウス」(パスクァラーティとは家主の名)。ここでオペラ『レオノーレ』や交響曲第4,5,7,8番などを作曲した。
調査・研究へのご支援