教材作曲家の本領

掲載日:2013年3月14日
執筆者:林川崇

来月4/26(金)に、筆者は「クレメンティと2つの世紀~第1回:18世紀のクレメンティ」 と題する公開録音会に出演することになりました。クレメンティと言えば何といってもソナチネが有名ですね。この曲は1797年に初版が出て以来、当時から何度も版を重ねています。つまり、200年以上も教材として使われ続けていることになります。
しかし、実際はクレメンティの作品の中心になっているのは、多様なスタイルで書かれたより規模の大きいソナタであり、その数は100曲近くにも上ります。演奏会で取り上げる中期のソナタは中でも特に円熟した古典様式を示す優れた作品です。
実は、クレメンティと同様に、作曲家の中には教則本ばかりが知られてしまい、作曲家として本領を発揮した力作が知られていない才人が非常に多いのです。
例えば、チェルニー、クーラウ、ドゥシークと言った人たちは、本格的なソナタや室内楽などでも見事な作品を数多く残していますし、ブルグミュラーはバレエ音楽を作曲し、当時大ヒットしていました。
練習曲で知られるヘラーや、ピアノ曲集《子供の生活》のみが知られているクッラーク(クラク)はチェルニーの有能な門弟で、ソナタ、小品、編曲といったあらゆる分野で非常に質の高いピアノ曲を残しています。クッラーク(クラク)にはアルカンに先駆けた《ピアノ独奏のための交響曲》という作品もあります。
作曲家でもある私は、ある程度作曲者の目線で作品を見ることができるだけに、作曲家の本領が発揮された作品が陽の目を見ないのは惜しいことだと常々思っています。クレメンティの演奏会では、作品の魅力が発揮できるよう最善を尽くしたいと思います。
楽譜サイトIMSLPにおいて本文中の作曲家の作品も数多く見ることが出来ます。
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