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ショパン演奏の伝統を聴く

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ショパン演奏の伝統を聴く

掲載日:2012年12月14日
執筆者:林川 崇

本日よりFacebookのコラム執筆陣に参加させていただくことになりました林川です。ピアノに関する様々な話題を提供できればと思っていますが、初回となる今回は、ピアノの代名詞ともなっている作曲家ショパンの作品の中でも、特に知られた《ノクターン》作品9第2番についてのこぼれ話を書くことにしました。

この曲を含む3つのノクターン作品9は1833年に出版され、楽器製作者カミーユ・プレイエルの妻マリー(1811~1875)に献呈されました。12月11日の上田氏の記事にもありますように、彼女は「(ショパンの)貴重な美点を体得した特権的な芸術家」とマルモンテルが証言している程の優れたピアニストであり、リスト、ルビンシテイン、ドライショック、オンスローといった当時を代表するピアニスト兼曲家たちからも作品を献呈された他、あのブルグミュラーも彼女にサロン向けのオペラ編曲を献呈しています。

話を戻しまして、このノクターン、実はショパン自身は毎回違う装飾で弾いたと伝えられており、彼自身が書いた、出版譜と異なる変奏が多数残されています。そして、ショパンの作品でこれほど変奏が多く残された曲は他に見られませんので、この作品の数々の異稿は即興演奏家としてのショパンの姿を伝える貴重なものなのです。これらの変奏は現在いくつかの原典版楽譜に載っています。最近ではそれらの版をレパートリーとするピアニストも現れてきてはいますが、まだまだ知らない方も多いですので、実際に弾いてみてはいかがでしょうか。

とここで、ショパンに由来する変奏がどのようなものだったのか聴いてみたくなった方もいると思いますので、演奏をご紹介します。ショパンの愛弟子ミクリからショパン演奏の伝統を叩き込まれた人物として知られるピアニストに、ラウル・コチャルスキ(1885~1948)という人がいます。彼が多数残したショパンの録音は、そうした伝統を現在に伝えるものとして極めて重要なものですが、その中に、ミクリ直伝の変奏で録音したこのノクターンがあり、右手と左手が、文字通り歌手と伴奏者が合わせ、引っ張り合いつつ進んでいくような歌い回しやリズム感は、まさしくショパンの語った「右手は自由に、左手は厳格に」という言葉を彷彿とさせるだけでなく、古の雰囲気まで伝えるその演奏には現在でも熱狂的なファンがいます。

YouTubeで検索:Koczalski Chopin nocturne E flat major

図1 ラウル・コチャルスキ(1885~1948)。Wikipediaポーランド版より転載
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