作曲家同士の交流に関するクイズの解説

掲載日:2012年11月10日
執筆者:上田泰史
昨日のクイズ、お互いに会ったことのない作曲家の組み合わせは、「J. S. バッハとヘンデル」でした。
1717年8月5日、バッハはケーテンで宮廷楽長の職を得て、23年に50キロほど離れたライプツィヒに移るまでこの街に住みました。ケーテン時代のバッハは数多くのクラヴィーア作品、クラヴィーア付きの室内楽を作曲しています。ピアノ学習者にとって重要な作品では《平均律クラヴィーア曲集》第一巻(1722)、《フランス組曲》(1722~25年頃)、《イギリス組曲》(1720年以前)、《インヴェンションとシンフォニア》(1723)がこの時期の創作の成果に含まれます。
1719年、ロンドンでの活躍で国際的な名声を博していたヘンデルは、妹の死を機に故郷の街ハレに帰省し母のもとを訪れました。ハレはケーテンからほぼ真北に約30キロという距離にあったので、バッハは噂に聞く巨匠ヘンデルに会おうと出かけましたが、惜しくもヘンデルは数日前、一足先に出発していたのでした。
しかし、1729年6月、二人の大家が相まみえるチャンスはもう一度だけ巡ってきました。この時、またしてもヘンデルがハレに滞在していることを伝え聞いたバッハは、病気だった自分の代わりに長男ヴィルヘルム・フリーデマンに招待状を送らせましたが、ヘンデルの都合が悪かったか、ついに彼の来訪はありませんでした。
かくして、音楽史の双璧は生涯接触することはありませんでした。日本ではバッハを「音楽の父」、ヘンデルを「音楽の母」などと呼ぶことがありますが、互いに会ったこともない夫婦がどこにあるでしょう!しかし、ヘンデルの音楽に母のおおらかさと強さを認め、常に緻密で厳格なバッハの音楽に家父長的な男性の姿を重ねたい日本人の気持ちは、理解できる気がします。
その他の作曲家の「出会い」については、今後折に触れて紹介していきたいと思います。