A.F. マルモンテル『著名なピアニストたち』

掲載日:2012年11月15日
執筆者:上田泰史
今週から、オリジナルの記事に加えて「翻訳シリーズ」を手掛けようと思い立ちました。今日、19世紀のピアノ音楽について日本語で読むことのできる文献は非常に少なく、それらの書物でさえ、欧米における近年の19世紀ピアノ音楽研究の成果を踏まえれば必ずしも正確な情報を伝えているとは限りません。また、翻訳される書物のテーマは特定の作曲家に偏りがちで、専門書となると一般の読者が手に取って読むには、時代や周辺人物に関するかなり幅広い知識が必要です。
そこで、現在著作権の切れた書物で、私たちがショパンを出発点として広くこの時代の音楽シーンを展望できるような書物を日本語で紹介できないか、と考えました。そのときに、思いついたのが、ビゼーやドビュッシーのピアノの先生として知られているアントワーヌ=フランソワ・マルモンテルの著書『著名なピアニストたち』です。

1816年生まれのマルモンテルは、生前ショパンやリストをはじめ著名なヴィルトゥオーゾたちの演奏を間近に聴き、恐らくは会話を交わしてその記憶を晩年、数冊の書物に記録しました。マルモンテルはいくつもの書籍を出版しましたが、「列伝」シリーズは次の3冊がから成ります。
『シルエットとメダイヨン:著名なピアニストたち』(1878)
『管弦楽作曲家とヴィルトゥオーゾたち』(1880)
『シルエットとメダイヨン:同時代のヴィルトゥオーゾたち』(1882)

「シルエットとメダイヨン」という見慣れない言葉が見えますが、「シルエット」は人物の横顔の輪郭線を描いたもの、メダイヨンは楕円形の枠に収められた肖像画で、当時の一般的な部屋の装飾具のことです。
『著名なピアニストたち』は、もともと『メネストレル』という音楽雑誌に連載されていた様々なピアニスト兼作曲家たちの伝記記事でした。『著名なピアニストたち』にまとめられたピアニスト兼作曲家は、冒頭と結尾を飾るショパンとリストを含め総勢30名に上ります。それぞれの人物の人生、作品、演奏、顔立ち、性格、マルモンテルと直接交流のあった人物については個々の想い出についても語られています。Facebook企画上で全ての翻訳をご紹介できるかはわかりませんが、ひとまず今日は目次のご紹介から始めたいとおもいます。そして明日以降、序文を経てエントリー・ナンバー1「フレデリック・ショパン」から順次掲載していこうと思います。また、以後はご要望に応じて翻訳順序を変えることもできると思います。コメント欄にご意見をお寄せ下さい。
- フレデリック・ショパン
- アンリ・ベルティーニ
- ステファン・ヘラー
- アンリ・エルツ
- ムツィオ・クレメンティ
- エミール・プリューダン
- マダム・プレイエル
- アメデ・メロー
- ジョン・フィールド
- フレデリック・カルクブレンナー
- ヤン・ラジスラウ・フンメル
- シャルル=ヴァランタン・アルカン
- ヨハン・バプティスト・クラーマー
- ルイ=モロー・ゴットシャルク
- ダニエル・シュタイベルト
- ジギスムント・タールベルク
- マダム・ファランク
- ヨハン・ネポームク・フンメル
- イグナーツ・モシェレス
- ピエール=ジョゼフ=ギヨーム・ヅィメルマン
- フェルディナント・リース
- カミーユ・スタマティ
- フェルディナント・ヒラー
- ルイ・アダン
- テオドール・デーラー
- マダム・ド・モンジェルー
- ルフェビュール=ヴェリー
- アレクサンドル・ゴリア
- カール・チェルニー
- フランツ・リスト
- 画像はGallicaより転載