ルイ・ディエメール 《オリエンタル》第3番、作品36

掲載日:2012年5月31日
執筆者:上田泰史
昨日は一日投稿をお休みさせていただきました。『ピアノ曲事典』構築に尽力されている本部事務局の実方さんは、現在、パリに出張中です。そこで、昨日は私と一緒に一日かけて市内の演奏会場を視察したり、音楽留学されている学生とのミーティングを行いました。20世紀フランスを代表するピアニストの一人アルフレッド・コルトー(1877~1962)が1919年(大正8年)に創設したエコール・ノルマル・ド・ミュジーク(パリ音楽師範学校)には現在多くのアジア人留学生が在籍し、ピアノ科でも日本人学生は優れた成績を収めています。昨日のミーティングでは、この学校に在籍中または卒業した五名のピアノ専攻学生と懇談会を開き、ピアノ曲事典への音源提供等についてお話させて頂きました。パリでそれぞれの目標や課題を抱えながら挑戦を続ける彼・彼女らと『ピアノ曲事典』の接点をお互いに探り、理解を深めながら、事典のさらなる音源充実に向けて新しい道が拓かれそうです。パリ発の『ピアノ曲事典』録音については追ってご報告致します。
本日の一曲は、コルトーがパリ音楽院で師事したルイ・ディエメール(1843-1919)の作品から《オリエンタル》第3番、作品36です。事典はディエメと表記していますが、フランス人は「ディエメール」と発音しているのをよく耳にします。彼が生きた19世紀の後半から20世紀前半はツーリズムの発達、植民地主義、パリ万国博覧会を通して、西洋とは異質な存在としての東方世界のイメージが広く浸透していきました。「東方世界」と言っても、「オリエンタル」という言葉は、東洋ばかりでなくアフリカ、南米など、西洋文明による支配の対象となった地域を含み、それらとの文化的な異質性、他者性を際立てる差別的なニュアンスを含んでいます。この作品にはキューバに由来するハバネラ風の伴奏が南国的なイメージを掻き立てます。ディエメールはその輝きのある音色と緻密な演奏技術により、当時多くの作曲家から信頼を集めました。おそらく、彼は他の作曲家から最も多く作品を献呈されたピアニスト兼作曲家でしょう。