ピティナ調査・研究

第一部 ジャンルとしての練習曲 1. 「チェルニー30番」の原題:《30のメカニズム練習曲》

「チェルニー30番」再考
第一部 ジャンルとしての練習曲
~その成立と発展(1820年代~30年代)
1. 「チェルニー30番」の原題:《30のメカニズム練習曲》

2011年に音楽之友社から出版された「チェルニー30番」は、おそらく日本で広く普及している最新の「30番」でありましょう。このエディションは、各曲に充実の分析、助言が施された大変実用的で学ぶところの多い楽譜です。この解説の一部で、作曲家の末吉保雄先生がチェルニーと「30番」について簡潔な概要説明を書かれています。ここで、「30番」の原題に関するパラグラフを引用します。

「チェルニー30番」の原題は「30 Études de Mécanisme Op.849」(30のメカニズムのエチュード)です。メカニズムとは, 音楽と演奏を成り立たせているしくみのことでしょう。機械的な技巧の訓練ばかりでなく、音楽的で幅広い発展を目指して作曲された小曲集です。

ご存知でしたか?「30番」の原題。実は、19世紀、特に1830年代以降、練習曲は単に「エチュードétudes」という味気ない名前で呼ばれることが次第に少なくなり、それぞれの練習曲集の特性を端的に表現する修飾語句とともに用いられるようになりました。いくつかの例を挙げましょう。

いかがでしょう。「様式」「華麗さ」「表現」「ジャンル」「リズム」など、実に様々なタイトルがついていますね。これは、明らかに、純粋なテクニック訓練という枠を超えたところに練習曲を位置づけたいという、19世紀の音楽家たちの意志の現れといえます。ちなみにショパンのように作品と言葉を結びつけることを避けていた作曲家は、たとえ様式や表現のうえで充実した練習曲を書いても、単に曲集タイトルを「練習曲」と名付けることがありました。