ピティナ調査・研究

電子ピアノのコンサート用楽器としての活用法を探る―『白と黒で』演奏会

電子ピアノのコンサート用楽器としての活用法を探る
―『白と黒で』演奏会

「電子ピアノを使って本格的なクラシック音楽をする」試みはメーカーのデモンストレーションのような機会を除いては非常に珍しいものです。 表現上、芸術上の探求を目的として音響を会場に最適化した試みとなると類例がないかもしれません。 電子ピアノでの演奏会『白と黒で』を企画した演奏者のお一人であるピアニストの本荘悠亜氏(ピティナ指導会員)からメッセージを寄稿していただきました。

メッセージ

ピティナ指導会員:本荘悠亜

ピアノ指導の最先端を走るピティナ調査・研究への寄稿をうれしく思います。指導会員の本荘悠亜です。
今回、2024年2月25日に開催される2台のデジタルピアノによる演奏会「白と黒で」にともなうタイアップ企画として、『公開リハーサル』におけるトークセッションや、noteにおける論考の公開を行いましたが、その一環としてピティナのウェブページでも紹介していただけることとなり、感謝いたします。
約2週間後に迫った演奏会の詳細については、ぜひ記事をお読みいただき、当日、会場に足を運んでいただければ幸いです。

  • 2 Digital Pianos Project“In White and Black”vol.1

このような演奏会を試みることには教育的な意義を強く感じます。私は普段ピアノの出張指導を行っていますが、都内のお宅に訪問すると、特別なケースを除いて8~9割は電子ピアノを自宅の練習楽器として使っている印象です。
論考の中にも言及がありますが、「電子ピアノなんかではグランドピアノの演奏技術は示せない」「電子ピアノでクラシック音楽を演奏しても、それはまがい物である」といった言説をピアノ指導者の中でも多く見かけます。
しかしピアノ指導者が我が身を振り返ってみると、真剣に「電子ピアノのテクニック」の上達に励んだことはあったでしょうか。電子ピアノとグランドピアノは異なる楽器であり、またそれぞれに特有の演奏テクニックを必要とするのです。我々の生徒たちが普段利用している電子ピアノについて、そのメカニズムから特性までを深く理解したうえで指導にあたることはとても意義深いことであると感じます。
ましてや、今回の企画のように、スピーカーをつないだ場合の音響効果の良し悪しや、練習に適した設定、タッチレスポンスの調整などに関しては、ピアノ指導者は完全に無知である場合が多いのではないでしょうか。

このように書きますと「デジタル物が好きな人なのだな」と思われるかもしれませんが、特にそんなことはありません。やはりアコースティックピアノの音色の多彩さ、手触り感は何物にも代えがたく、実際に長らくアコースティックのピアニストを目指して研鑽・研究を積んできました。 最後に電子ピアノを使ったのは6歳、ブランクは20年以上あります。本企画を共演の横山さんに誘われるまで、ちょっと心の中で電子ピアノをあなどっていたかもしれません。
久々に電子ピアノをまともに触ったのは昨年の夏。電子ピアノでよい演奏ができるに違いないと意気込んだものの、グランドピアノのテクニックが想像以上に通用せず、文字通りおもちゃのような音しかしなかったことを思い出します。 「電子ピアノをうまく弾く」にはまた違った鍛錬が必要なことを身をもって知り、同時に生徒たちの気持ちに少しずつ寄り添えているような気がして嬉しかったのです。ピティナにおいても、たとえば会場にプロの音響さんが常駐し、ハイエンドモデルで演奏できる、デジタルピアノオンリーのピアノステップがあっても面白いかもしれませんね。 今回の企画を指導者の仲間に紹介すると、「エレクトーンで演奏なさるのね」「部屋の中で弾く音量だと、コンサートで使い物になるの?」という反応もいただきました。
私たちも使い物になるかどうかは不安半分でありましたが、先日の公開リハーサルを経て、音響職人とのコラボレーションによって十分に耳を楽しませることができるのだと確信を得ました。
まだまだ電子ピアノが、スピーカーや音響制作を伴えばステージ用の「ハレ」の日のための演奏楽器としては認知されていないわけで、これからの発展の余地が楽しみです。