第96回 ラヴェル『マ・メール・ロア』
今月は、日本の夏の蒸し暑さを忘れられるこの作品を...?。あまりに現実的な日々に追われてしまうと、ふと取り出してしまうのがこの曲。モーリス・ラヴェルが友人の2人の子どもたちのために書いたと言われているピアノ用連弾の組曲で、大人になった今でも、一瞬で想像の世界に居心地のよさを感じていた幼い頃に戻ることができる作品です。
ちなみに『マ・メール・ロア』(英語で『マザーグース』のこと)は、『ロアお母さんの物語』というシャルル・ペローの童話集に物語の語り手として登場する「ロアお母さん」のことだそうです。フランスの詩人シャルル・ペロー、ドーノア伯爵夫人マリー・カトリーヌ、バーモン夫人と3人の作家の童話集を題材としていますが、組曲としての一連の流れはラヴェルそのものの世界観を感じることができます。
"第1曲 眠りの森の美女のパヴァーヌ"語りのような冒頭から気がつけば物語の中に。そして、百年の眠りについてしまった女王様の夢の中で、"第2曲 親指小僧"貧しい家に生まれ森に捨てられさまよう小僧(一寸法師)が現れる。どこからともなく聞こえる鳥の鳴き声も印象的に心に残り、"第3曲 パコダの女王レドロネット"西洋から見ただろう中国を描いた世界に、様々な音や踊りで目まぐるしく色彩に溢れ、"第4曲 美女と野獣の対話"美女と野獣の対話が...?。何かが芽生えはじめるような冒頭がたまらなく好きで、この曲にずっと憧れをもっています。そして"第5曲 妖精の園"百年の眠りについた女王様のもとにひとりの王子様が、長い眠りの間たくさんの夢を見てきた女王様に口づけを。まるでファンタジー映画のクライマックスを見ているように喜びで胸がいっぱいになります。
これらの童話集が、音(管弦楽)の魔術師とも言われたラヴェルの手にかけられたことで、「語り」「情景」「色彩」の調和を保ちながらも無限の広がりを感じる世界に。題材を音楽とより具体的に一体化することの想像力の豊かさが感じられる素敵な作品です。お話と連弾など発表会や演奏会の機会に是非、演奏してみてください。