ピティナ調査・研究

第93回 アンドレ・ギャニオン『めぐり逢い』

今月、この曲
アンドレ・ギャニオン『めぐり逢い』

ミュージックトレード社『Musician』2018年6月号 掲載コラム


ヒーリング音楽の分野において一世を風靡したアンドレ・ギャニオンは、カナダのケベック州出身の作曲家、ピアニストです。モントリオールのコンセルヴァトワールでクラシック音楽の基礎を学んだ後パリに留学し、そこで出会ったポピュラー音楽に魅せられました。

1970年には、大阪で開催された万国博覧会のカナダ館において演奏するため、28歳で初来日しています。親日家としても知られ、ピアノの吟遊詩人と呼ばれるに相応しい彼の代表作が「めぐり逢い」です。様々なドラマのテーマ曲として、また、ドキュメンタリー番組のBGMや自動車のCMにも使われています。

20年程前、偶然、初めてこの曲を耳にした時、言いようのない懐かしさがこみ上げて来て、爽やかな風がそよそよと吹く南仏プロヴァンスの美しい田園風景の中に佇む自分がいました。静かに語りかけるような柔らかで温かみのある美しいメロディーは、優しさで満たされていますが、そこには、ほんのりと哀しみも漂います。

コンクール後や受験勉強、あるいは子育てを経てピアノを再開した生徒さんに、この曲を紹介しますと、皆、喜んで弾いてくださいます。何の技巧も施されていないシンプルな美しさに、心癒されるのでしょう。

メロディー部分を、管楽器や弦楽器で奏で、ピアノで伴奏を付けたり、楽譜通りピアノで弾いて、管弦楽器でオブリガートを入れても、それは淡い色彩を放ち、とても美しく響くと思います。他に、この楽譜に収められている「明日」は、日本人作詞家により歌詞が付けられ、10数年前にテレビドラマの主題歌になりました。過去と決別して、新たな人生を歩んで行こうと努める気持ちが静かに切々と歌われ、胸を打ちます。

彼の作品はどれをとっても、ほんの少しの和声変化がお洒落でとても素敵です。初夏のひと時、心地良い風の中で今までにめぐり逢えた大切な方々に想いを馳せながら、アンドレ・ギャニオンの世界を是非ご堪能ください。

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