第87回 ドホナーニ『ハンガリー牧歌Op.32a』
今月の1曲はエルンスト・フォン・ドホナーニの『ハンガリー牧歌Op.32a』をご紹介したいと思います。ドホナーニは1877年生まれのハンガリーの作曲家で、『ハンガリー牧歌』はトランシルヴァニア民謡の旋律を基に作曲された、全7曲からなる組曲となっています。1番はたった2ページの中にまったりとしたシンプルな主題が9回も繰り返され、その繰り返しごとにハーモニーや伴奏形が変化していく形になっており、各フレーズの終わりに必ずリタルダンドの指示があるため、なんとも牧歌的でアンニュイな雰囲気を醸し出しています。第2番は対照的に4つのフォークソングが組み込まれたロンド形式の華やかな作品で、ハンガリー語の酒場が語源となっているジプシー舞曲のチャルダッシュ風になっています。
この曲集ですが、ピアノ版以外に管弦楽曲版や、ヴァイオリンとピアノ版などもあり、ヴァイオリン版はピアノ版7曲から、華やかな2番と7番を使用し、更に6番の旋律の一部を使った、通称「ジプシーアンダンテ」と呼ばれる新しい楽章を差し込んだ形の作品となっています。伝説的ヴァイオリニストのハイフェッツやクライスラーが好んで演奏していた人気曲ですので、お聴きになった事もあるかもしれませんね。
そして最後の曲第7番は、4分の2拍子、molto vivaceの2分ほどの作品です。ソリの鈴の音のようなシンプルで疾走感のある主題には、まるでクリスマスの準備に心躍らせる子供たちや、忙しなく年末の買い出しをしている大人たちの様子を想像させる賑々しさがあり、特にクリスマスタイトルがついてはいませんが、私にとって12月に弾きたくなる作品の一つでもあります。
ドホナーニ自身、正確無比なテクニックを誇ったコンサートピアニストでもありましたので、技術的難度は高いですが、演奏効果の高い作品でアンコールピースなどに最適です。ドホナーニ自身の録音も残されていますので、ぜひ探してみて下さいね。