第82回 ヘイノ・カスキ『泉のほとりの妖精 Op.19-2』
梅雨時は物憂げな曲を聴きたくなる。
ヘイノ・カスキ(1885-1957)はフィンランドの作曲家、ピアニスト。メラルティン、シベリウス、パルムグレンに師事し、ドイツ、フランス、イタリアに留学後、ヘルシンキ音楽学校で教師を務めフィンランド作曲家協会より名誉賞を受賞。交響曲の他、100曲ほどの歌曲、100曲以上のピアノ曲、ヴァイオリン、チェロ、フルートのためのソナタを残している。
Op.19は、Nr.1「夢」、Nr.2「泉のほとりの妖精」の2曲の存在は確認できたが、作曲年や曲数については確認できなかった。Op.19はカスキが1度目のベルリン留学から第一次世界大戦の影響で故国へ戻った1914-1919年、代表作のOp.16「交響曲ロ短調」が書かれた頃と同時期と考えられる。
カスキの音楽作品の多くは小品で叙情的なものが多い。妖精や小人という題名が多くみられるが、フィンランドには妖精の伝説がある。トントゥと言われる小さな妖精で、森の中や人間の住む家や小屋に住み込み、人間にも好意的な存在。その家の住人が楽しく過ごせるように火事や病気から守ってくれるそう。カスキは田舎で育ったようで静かな環境の中で感性を研ぎ澄まし、それが繊細な音楽の源となっているのではなかろうか。
「泉のほとりの妖精」は、4分の2拍子、ロ短調、Allegretto、3部形式。演奏時間は約3分。4度の3連符から始まる。森の中の湿気や静けさを感じる出だし。ペダルを使用して高音を響かせる、指先のみで重みを乗せずに奏すると美しく奏することができる。
中間部は調号はロ長調、拍子は4分の3拍子。ロ長調も束の間、ニ長調、推移を経てロ短調へ。アルペジオの上にメロディの形で、4小節でフレーズを感じると良い。再現を経て、コーダ。コーダでも出だしと同じく3連符で詩的な情景を表現して終止する。
音の美しさ、魔力に引きづり込まれるので、是非演奏してみてほしい。