第59回 ジャン=フィリップ・ラモー『やさしい訴え』
皆さんは『ベルサイユのばら』という漫画をご存知でしょうか? 数十年前にとても流行った作品で、TVアニメも放送され一大ブームを巻き起こしました。通称「ベルばら」と呼ばれるこのお話は、フランス・ブルボン王朝後期、ルイ15世末期からフランス革命でのマリー・アントワネット処刑までが史実を基に描かれているのですが、つい先日偶然にも見る機会がありました。そこで......。
今月ご紹介したい作品は、その当時のフランス、バロック時代の作曲家、ジャン=フィリップ・ラモー(1683〜1764)の『クラヴサン曲集と運指法 第2番(第3組曲)より1.やさしい訴え(ロンドー)』(やさしい嘆き)です。
2つの副主題を備えたニ短調のこの曲は、甘美な彩りと装飾音を持つ翳りのある旋律を左手が分散和音で伴奏する主部と、同じニ短調で同様の情緒を醸し出す第一の挿入句、そして曲調は同じでもヘ長調の明るい第二挿入句からなります。題名のように穏やかで心にしみいる魅力的な作品です。
時は廻り、ヴェルサイユ宮殿を訪れた時、その広大な敷地と豪華絢爛な広間の数々、調度品の品格、シャンデリアの何とステキなことか......圧倒されました。そしてこの宮殿の広間で奏でられていたであろう音楽は、その音の響きは......と想像してみると、更にこの曲の持つ美しさが感じられます。
現在のようにTV、ラジオ等々の生活音のない頃、あるのは風の音、小鳥のさえずり、遠くに聞こえる馬車の音など自然音の世界。その中で音楽はきっと無上の喜び・楽しみであったことでしょう。
ルイ15世の宮廷作曲家に任命され、音楽理論家としても多大な功績を残したラモーの「やさしい訴え」を是非演奏して、古の良き時代の音楽を一度味わってみていただきたいと思います。そして、今も時空を超えて語りかけてくるフランスバロックの音楽をお楽しみ下さい。