ピティナ調査・研究

第56回 オスカー・エスプラ『レヴァンテ』

今月、この曲
オスカー・エスプラ『レヴァンテ』

ミュージックトレード社『Musician』2015年5月号 掲載コラム


新緑の美しい5月になりました。爽やかな風を楽しみながら、遠い地中海の景色に思いを馳せて、この曲を弾いてみませんか? 今月ご紹介する曲はオスカー・エスプラ(1886-1976/スペイン)作曲の「レヴァンテ」です(レヴァンテ=スペイン東部の地方名)。

エスプラはレヴァンテ地方のアリカンテという、地中海に面したとても景色の美しい町に生まれました。幼少から音楽を始めたものの、父の希望で技師になりましたが、1911年、彼が25歳の時にウィーンの音楽コンクールで自作曲が入賞し、それがきっかけで音楽家になる決意をしたのです。その後、国外で音楽修行を重ね、中でもパリではサン=サーンスに師事しましたが、作風はフランス音楽に特に影響される事も無く、戦争のために帰る事のできない故郷への愛が募るばかりでした。

彼の音楽は、その故郷の民族音楽に根付いており、フリギア旋法に似たスペインの「ミの旋法」を多用しています。カデンツで「Am→G→ F→E」と弾いてみてください。この時Gではソは?ですが、Eではソが♯です。これこそがスペイン音楽の特徴です。ミの旋法では主音がミであるものの、調性的にはラが重要になります。なので、ラを主音とした時の第7音となるソが?だったり、導音としての役目をするために♯がついたりと変化するのです。

「レヴァンテ」ではこの「ミの旋法」をもとに同主長調と短調を頻繁に入れ替える事で、独自の雰囲気を醸し出しています。"旋律とダンスの主題"という副題を持つこの曲は、全部で?から?の小曲から成り、不安定な調性と、色彩豊かな和声で書かれた「旋律」部、そしてクルクルと変わる即興的なリズムの「ダンス」部で構成される印象派の作品です。彼の愛したアリカンテの美しい風景、民謡、踊りなどがこの作品の中で表現されています。

弾き始めると、まるでおじいさんが昔の出来事を語っていて、そのお話の中の光景が目に浮かんでくるようです。さぁ、コバルトブルーのドレスを着て、美しいこの曲を弾いてみてくださいね。

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