ピティナ調査・研究

第54回 優しさの結晶

今月、この曲
魂の響き

ミュージックトレード社『Musician』2015年2月号 掲載コラム

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小久保素子
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先月に続いて今回もフォーレのピアノ曲をご紹介します。連弾「ドリー組曲」です。この作品はフォーレの曲としてよく知られているものの1つです。発表会、コンクール、コンサートなどですでに演奏されている方々も多いでしょう。ある女の子の誕生日に、1894年から毎年プレゼントした曲を中心に出来上がった6曲から成る組曲です。今回はその中から第5曲「Tendresse~優しさ~」に焦点を当てます。

この曲は4分の3拍子、Des-dur。6曲中一番ゆっくりです。組曲として出版する際、終曲「スペインの踊り」と共に作曲されたのでは、といわれており、バスの半音進行、遠隔調への転調など、同時期に作曲された夜想曲第6番(Des-dur)との類似点からも円熟期の作品ということがわかります。多声部と複雑な和声進行は繊細な心の襞を感じさせ、中間部のセコンドとプリモによるカノンは、tranquillamenteという指示があっても緊張感をはらんでいます。やわらかく優しい旋律線はフォーレ独特の色彩をおびて心の奥へと浸みていきます。カノンは2人で弾いた方が1人より面白く、多声部も2人で分けて弾くと親しみやすくなります。フォーレの作品を楽しく弾くために連弾はお勧めの演奏形態です。

フォーレの時代には裕福な夫人のサロンがパリにはいくつもありました。そこには作曲家、詩人、小説家、画家などが集い、出来上がったばかりの作品の演奏や朗読などが行われていました。夫人達は作曲家の創作活動を支援することもよくあったようです。銀行家夫人エンマ・バルダックもその一人でした。声楽家でもあったエンマのおかげで、フォーレは1892年、歌曲集「La Bonne Chanon」という素晴らしい作品を完成させます。「ドリー組曲」は歌曲集と同年に生まれたエンマの娘(愛称ドリー)へのプレゼントでした。

1985年にドリーが亡くなった後、フォーレ研究家ネクトゥー氏は、彼女の父親がフォーレだったことを公表しました。その事実からはフォーレの強い「優しさ」が見えてきます。

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