第50回 オリオン座の女の子
ヴィラ=ロボス(HeitorVilla-Lobos1887-1959)というブラジルの作曲家がいます。彼の作品との初めての出会いは、友人の演奏していた「赤ちゃんの一族」という小品集でした。ピアノの音色が打楽器やハープ、ギターを思わせる不思議な響き、それでいてなつかしい響きの中に子守唄のような安らかな光景が浮かび上がり、それまでに感じたことのない未知の世界からの贈り物のように新鮮に感じました。そんな出会いから暫く後、とあるコンクールでその不思議且つ懐かしい響きに再び出会いました。彼の作品「三つの星TheThreeMaries」でした。3曲の短い曲からなり、全部演奏しても4分そこそこですが、ヴィラ=ロボスらしさを凝縮した作品です。
第1曲は、両手のトレモロがマリンバを思わせる鮮やかな光が降り注ぎ、まるで星粒が降るように神秘的に、第2曲は、ウインドチャイムのような描写をしながら、やさしく語りかけるように緩やかに、そして第3曲はうねうねと音を操りながら、流れ星のシャワーを思わせるような表現をしながら消えていく。それぞれ違った技法で星の描写が考えられ、それまでに耳慣れた音の作り方とは違う、新鮮な描写の作品です。
『むかしブラジルの片田舎に《3人のマリア》と呼ばれる3人の少女達がいました。少女達は大の仲よしで、いつも陽気に遊んでいました。彼女達は明るくにこやかにその一生を過ごしました。この3人の仲間は人類和合の永遠のシンボルとして役立つであろうということから、運命の神が地上のほかの子どもたちの歩むべき道を照らしだすために、永遠の星として空に残しました』(ヴィラ=ロボス:三つの星/全音楽譜出版社より引用)
秋深い時期の澄み切った夜空。遠い遠い宇宙から何百年もの時をかけ輝きを届けてくれるオリオン座の星たち。そのオリオン座のひときわ光る二つの星の間にある「アルニター」「アルニラム」「ミンチカ」の仲良しの三つ星を探しながら、可愛らしいこの作品を思い浮かべていただきたいと思います。