第49回 もうひとりのシューマン
10月に紹介したい曲。最初に思い浮かんだのが、私の本棚の片隅の青い1冊。クララ・ヨゼフィーネ・シューマン(ClaraJosephineWieck-Schumann,1819-1896)の作品集です。
シューマンといえば、シューベルト、ショパンと共にロマン派を代表するロベルト・シューマンが有名ですが、妻のクララも子供のころから天才ピアニストとして活躍。また当時では珍しく、作曲家としても才能を発揮し、終生現役のピアニスト・指導者として活躍した、ドイツの誇る女性です。
私生活では大恋愛の末にロベルトとの愛を勝ち取り結婚し、妻としても8人の子供たちの母としても完璧に生きた、尊敬すべき女性です。現在ではクララのような女性もたくさん活躍してみえますが、その当時の状況から考えると常識をはるかに超えた「スーパーウーマン」だったと思います。
現在残されたクララの作品は、夫ロベルトの作品数に比べるとほんのわずか。どれも若い時の作品ばかりですが、どの作品も心に響く美しいメロディーで、もしかしたら夫に影響を与えたのはクララだったのかもと思うほどです。
「3つのロマンス第1曲イ短調Op.21-1」は、夫ロベルトの43歳の誕生日にクララが贈った作品です。胸の奥からささやくようなメロディー、ゆらゆらと揺れて流れるハーモニー。短い作品ですが、胸がキュンキュンするステキな作品です。また、ピアノの名手の作品らしく、各声部の弾き分けや音色の作り方など美しく演奏するには難しい曲ですが、大人の方にぜひレパートリーに入れていただきたい1曲です。この作品を入口に他のクララの作品にも興味を持っていただきたいと思います。
音楽の歴史の中で名前を知られている女性作曲家はほんのわずかです。中でも紙幣の肖像に使われるほど愛されたクララ。もの想う秋の夜長。クララ・シューマンの愛と活力に溢れた作品に触れてみてはいかがでしょう。