第43回 平吉毅州『さくらの花が舞うよ』
ようやく厳しかった冬も終わりに近づき春の足音を感じる季節になると、私の心の中の何かがウキウキワクワクし始める。頬に当たる風も優しさを帯び、凍えたかのように見えた木の枝々の先には、よーく目を凝らさないと見過ごしてしまいそうな小さな小さな新しい芽吹きを発見!! プランターの花たちも今までの遠慮がちだった姿からは想像もつかないほど自信に満ちた体型? に変身している。
そして、私がこよなく愛する桜前線の北上が始まり、あちこちから開花宣言の便りが届くと、私の心は歓びの歌を歌いだす。はて、こんなに桜を好きになったのは一体いつの頃からだろう......。
思えば、3人の子どもたちが誕生してから暫くの間は、わが家の近くにある公園で満開の桜をバックに写真を撮るのがこの季節の恒例行事だった。今でもリビングの片隅にその頃の写真が飾ってある。滑り台の上で3人の幼子の笑顔がはじけている。弟とお揃いのトレーナーを着た長男は手すりにもたれておませなポーズをとり、しゃがみこんで顔を上げた次男は自分が見つけた何かを私に伝えたいかのような眼をしている。白いニット帽にジャンパースカートの末娘は自慢げにピースサインをしている......。まてよ、これはピースではなく"わたしは2歳"の意味だったのかもしれない。どちらにしても、遠い遠い記憶を呼び起こしてくれる桜との大切な想い出の1枚である。
さて、私のお気に入りの1曲「さくらの花が舞うよ」は、楽譜上では生徒と先生用の連弾曲である。しかし、テクニック的なレベルの差は小さいので兄弟姉妹や友達同士でも充分楽しめる曲に仕上がっている。
メロディーに絡み合うハーモニーはシンコペーションの軽やかなリズムに乗って流れているが、それでいてどこか可憐でちょっぴりはかない。まさに桜色の淡いピンクのメロディーが春風を従えてはらはらと舞っている情景を思い浮かべることができるのである。
私は散り始める桜の花びらを眺めながら、今年もこの曲を口ずさんで移りゆく春を愛おしみたいと思っている。