ピティナ調査・研究

第38回 オスカル・メリカント『ロマンス Op.12』

今月、この曲
オスカル・メリカント『ロマンス Op.12』

ミュージックトレード社『Musician』2013年11月号 掲載コラム

楽譜画像

さあ、芸術の秋です! 深まりゆく秋、センチメンタルな気分にぴったりの曲を紹介いたします。オスカル・メリカントの「ロマンス」。今月もフィンランドの作曲家の作品です。

フィンランドといえばシベリウスがまず浮かぶところですが、その年代の周りには、あまり知られてはいないけれど素敵な作品を残している作曲家が何人かいます。現在、左手のピアニストとして活躍されている舘野 泉さんが、何年も前にそういった作曲家の作品を、楽譜の編纂やレコーディングなどで積極的に紹介されたことで、私たちは多くの楽しみを与えられました。そのうちのひとり、メリカントはフィンランドではシベリウス以上に人気の高い作曲家とのこと。舘野さんの演奏による「ワルツ・レント」は、チーズのテレビコマーシャルのバックに使われていたそうです。

この「ロマンス」を初めて聴いた時、「あら? 夕焼け小焼け?」とびっくりしたのですが、曲の出だしが山田耕筰の「赤とんぼ」にそっくりなのです。その後に続く旋律もまるで日本の童謡のようです。フィンランドの音楽には日本の歌かしら、と思うようなものがよくあるのですが、日本人の持つ抒情性と何か共通するものがあるような気がしてなりません。

過ぎし日を懐かしむような情感あふれる美しい旋律の後は、青春の燃え上がるような情熱が甦ったかのように、華やかにダイナミックに展開していきます。オペラや映画のシーンが浮かんでくるようなドラマティックな音楽で、やがてリストのカデンツァ風の軽やかなパッセージで締めくくられ、再び最初の旋律が出てきて惜しむように終わります。

メリカントの音楽は、甘美で切なさと華麗さを併せ持ったポピュラー音楽のような心地よさがあります。この曲はオクターブの和音やトレモロがたくさん出てくるので、ある程度の手の大きさとテクニックは必要ですが、大人の方にはピアノを続けてきた喜びが改めて感じられるような一曲でしょう。