ピティナ調査・研究

第30回 Manami Morita『I am』

今月、この曲
Manami Morita『I am』

ミュージックトレード社『Musician』2013年2月号 掲載コラム

楽譜画像

冒頭のメロディを街中で聞いて、「あれ?この曲なんだっけ?」どこかで聞いたことがあるけど思い出せないままに一日を過ごし、帰宅。今日一日の出来事を振り返るべく、9時54分テレビをつけると、この曲が......。「あ~そうだった!」と謎が氷解、すっきりした気分になりました。

この曲は『報道ステーション』8年目の新テーマ曲として2011年4月からオンエアされています。赤い糸の一筆書きで作り出される線画のアニメーションとともに流れる曲

「I am」の作・編曲者は、20代の新進気鋭のジャズピアニスト森田真奈美さん。「I am」とは文字通り「わたしは」という意味。自分の良いところもダメなところも受け入れ、バランスを取って生きていきたい、という思いが込められているそうです。

楽譜の扉に書かれている制作者からのメッセージには、たとえ悲惨なつらいニュースであってもしっかりと伝え、このテーマ曲「I am」とともに自らの番組を真摯に見つめながら視聴者に「希望」を届けたいと綴られています。

番組が始まってすぐの、神業のような速弾きのフレーズと音階の連続は、ピアノ弾きだったらちょっと挑戦してみたくなります。楽譜を見ると音階の部分は5連符の連続で、前のめりになりそうでならない緊張感はここから来るのか! と頷けます。また後半部分は多彩な転調を繰り返していて、目まぐるしく過ぎた今日一日を表現しているようでもあります。

実は初めてこの楽譜を手にしたとき、指が動かないのは自明の理なので、とてもゆっくり弾いてみたのです。バラードのようにゆっくり弾くと、この曲の持つハーモニーの美しさ、転調が感じさせる儚さに気づかされます。

もうすぐ立春を迎えますが、今は1年で一番寒い時期。こんな季節は早めに帰宅し、夕食は鍋料理、お風呂にもゆっくり入った後、グリューワイン(ホットワイン)を飲みながらニュース番組を見て、のんびりと一日を振り返りたいですね。そして間もなくやってくる春に希望を寄せながら、この曲を弾いてみてはいかがでしょう。