ピティナ調査・研究

第24回 デオダ・ド・セヴラック 『日向で水浴びをする女たち』

今月、この曲
デオダ・ド・セヴラック 『日向で水浴びをする女たち』

ミュージックトレード社『Musician』2012年8月号 掲載コラム

楽譜画像

デオダ・ド・セヴラックという作曲家は、まだあまり馴染みがないかもしれませんが、人間味溢れる魅力的な作品を残しています。ピアノ曲はあまり多くはないようですが、そのうちの一曲『日向で水浴びをする女たち』をご紹介させて頂きたいと思います。

セヴラックは南仏の田舎に生まれ(古くから続く貴族の家系)、父は画家、母はオルガン奏者、姉妹たちも画家、彫刻家という恵まれた環境の中に育ち、セヴラック自身も、音楽に、絵画に、文学に、と才能を発揮しました。美術面では、ピカソ、モネ、ゴーギャン、音楽ではアルベニスも師の一人であり、フォーレ、ドビュッシー、ラヴェル、シャブリエなどと交友関係にあり、影響を受けつつ、独自の世界を作り上げました。都会の生活に馴染めず、生涯を故郷で、老人や貧しい農民たちの力となりながら(村会議員も務められたようです)作曲を続け、"田舎作曲家"とも呼ばれていました。

今回ご紹介する作品は、まさに、のどかな田園風景を背景に、まぶしい程に輝いた太陽の下、桶を片手に水浴びをする女性の姿を憩うのです。

宝石化した水しぶきがキラキラと辺りに散り、さわやかな風に乗って教会の鐘、時計台の鐘が澄み切った大空にこだまする。時にオルゴールの響きで詩を語り、豊かな色彩で絵を描き、まさに「音で描いた絵」そのものを感じずにはいられません。私の中では、セヴラックの曲は、他のどんな作曲家より絵を感ずる事が特に多いのです。

印象派の技法に、セヴラックが得意だったと言われる即興演奏的な流れ、ロココ時代の装飾の世界が現れたかのような用法があちこちに織り込まれ、華やかさ、優雅さを添えて、たいそうの魅力を感ずる一曲です。
一度聴いたら忘れられない、自然を愛し、農民を愛し、温和で寛大な心をもつセヴラックならではの美しい作品だと思います。