ピティナ調査・研究

第17回 嵐野英彦『はつもうで』

今月、この曲
嵐野英彦『はつもうで』(カワイ出版)

ミュージックトレード社『Musician』2011年1月号 掲載コラム

楽譜画像

今年は未曽有の大震災、続いて想定外の事故が日本国中を揺るがせ、被災された方々を思うと同時に、今更ながら「日本」という国を思う日々でした。便利さと引き換えに失ったものの大きさに思いを馳せ、決して失ってはいけないものも心に刻み、この国で生きていくことを再確認しました。

さて、もうすぐお正月。皆様はどのようにお過ごしになりますか? 我が家では例年、近所の神社=氏神様に「家内安全・家運隆昌」を祈り、お札を頂いて来ます。初詣の日の神社は参道の両側に屋台も出て、御参りの人の行列が出来、たいへんに賑わっています。破魔矢を手に帰る若い家族も多く、日本の風習は失われていないなあと嬉しくなるものです。

嵐野先生のこの曲を初めて知った時に、自分が子どもの頃の初詣の情景がぱっと思い浮かびました。新しい年を迎えた朝、晴れ着を着せて貰い、家族が正装で初詣に向かう。着なれない着物にちょっぴり窮屈な草履で歩幅にも気を付けながら神社へ向かう、嬉しい様な恥ずかしい様な気持ちを今でも思い出します。

楽譜の中の楽曲解説にもありますが、左手はそんな神妙な足取りのように1拍1拍を大切に、ちょうど玉砂利の上を草履で歩く様な感じでしょうか。9、11小節目の左手の和音はいよいよお参りで打つ柏手のように、13小節目はお参りのお終いにほんのちょっと見得を切るような感じでまた帰途に。最後の3小節は1年の初めの行事を成し遂げた安堵感と幸福感を漂わせて。

この曲集は「ピアノで出せる日本の音」というコンセプトで、他におみくじ、すごろく、がんかけ、かざまつり、たなばた、はつゆめ、おみやまいり、えんぎもの、ひなまつり、さぎちょう、せつぶん、かきぞめ、はなまつり、しょうぶゆ、ころもがえ、とうろうながし、じゅうごや、しちごさん、つごもりそば、げんまんの20曲が収録されています。日本の音を味わいながら弾いてみましょう。