ピティナ調査・研究

第12回 自転車に乗って朝日を見に行こう

今月、この曲
自転車に乗って朝日を見に行こう(カワイ出版)

ミュージックトレード社『Musician』2011年8月号 掲載コラム

楽譜画像

自転車で風を感じて走るのが好きです。この頃の全国的な省エネモードで車をなるべく使わないように、と思うとますます自転車の出番も増えました。子どもの近現代ピアノ曲大好き、の私ですが自転車のものも結構あります。グレチャニノフ「自転車に乗って」、林光「自転車のりのうた」、ジョン・ジョージ「自転車に乗って」......ついでに安倍美穂「じてんしゃ乗れたよ」なんていうのもあります。

人力で動く乗り物のけなげな感じと、独特の愛らしい動きが「音にしてみよう!」という気を作曲家に起こさせるのでしょうね。それぞれ比べてみると同じ題材でも作曲家によっての目のつけどころが違うのも楽しく、でもどれも6拍子を含む3拍子系です。足は2本、車輪はふたつ......でもぐうん、とペダルを踏み込むときの一筋縄ではいかない感じが3拍子のスウィング感なのでしょうか。

「自転車に乗って 朝日を見に行こう」。長めのタイトルが新鮮で、タイトルそのままの情景が浮かんでくる曲です。こちらは8分の12拍子。自転車の乗り手が達者なので3拍子を4つずつたばねながらぐんぐん進みます。現実離れしたような音の使い方が美しい。朝もやの中をかけてくる自転車、朝日の一番美しい時間を見逃すまいと、少し腰を浮かしながら一生懸命ペダルを踏む姿が見えてくるようです。いつも通る慣れた道、でこぼこ道や曲がり角も、上手に乗り物を操りながら進んで行きます。最後のがんばりはあの上り坂、立ち上がるようにしてペダルを踏み登りきると、あとは一気の下り坂、スピード出過ぎないよう、やや慎重に降りれば、そこがとっておきのスポットです。ああ、間に合った、お日さまの光が満ちる瞬間に立ち会えました......。

作曲者は石田祥子さん。まだお若い、チャーミングな方ですよ。ご自分の自転車通学での体験を音楽にされたそうです。自転車に乗ったことのある方ならきっと共感していただける素敵な1曲です。

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