第10回 シベリウス 『「花」の組曲 op.85-3 あやめ』
皆さん!「ナスヒオウギアヤメ」ってご存知ですか? 栃木県の北部、那須地方で昭和天皇によって発見されたアヤメで、昭和天皇が長年に亘って研究されたとても貴重な植物です。その名は、幾重もの幅広な葉がピンとのびている姿が檜扇に似ていて、那須地方で発見されたアヤメであることから名づけられたそうです。
そのナスヒオウギアヤメの観賞会と野点が栃木県中央公園で催され、私も久々の茶会に胸を踊らせて参加しました。湿地を好むこのアヤメは、水を湛えた池の岸辺で凛と立ち、気品を漂わせていました。日本庭園の一画でその花を観賞しながら口にする一服のお茶は、真に味わい深いものでした。茶碗に映える緑と青空とナスヒオウギアヤメの赤紫色の組み合わせは、初夏のさわやかな風とともに心地よいものでした。
ここでシベリウスの作品から「あやめ」をご紹介しましょう。これは1917年に「花」の組曲の3曲目として作られました。シベリウスのイメージしたアヤメは、勿論ナスヒオウギアヤメとは異なりますが、世界中どこで見てもアヤメの印象は共通なのでしょうか。凛としていて艶やかですが、どこか淋しさをも感じさせる花です。その情景が曲中に見事に表現されています。何回か現れる休符は、アヤメが咲く草原の静けさをかもし出しているようです。ホールでの演奏でこそ、この休符の効果が魅力となって広がる作品だと思います。どことなく大人の香りのする作品です。
森や草原を彩る草花に目を向けたシベリウス。たぶん自然を愛した心優しい作曲家だったと想像されます。この組曲では他に「矢車草」「カーネーション」「金魚草」「つりがね草」があります。シベリウスが見た花の世界を想像しながら演奏するのも楽しいものです。ますます親しみを感じる作曲家です。