ピティナ調査・研究

第6回 ショパン『ノクターン Op.9-2』

今月、この曲
ショパン『ノクターン Op.9-2』(各社版)

ミュージックトレード社『Musician』2011年2月号 掲載コラム

楽譜画像

2月はショパンの誕生月。今回選曲したショパンのノクターンは、クラシックファンでなくとも誰もが知っている名曲です。

 実在したピアニスト、Eddey Dutinの人生を描いた1955年のアメリカ映画『愛情物語』の劇中で流れるこの曲はカーメン・キャバレロの名アレンジ「To Love Again」として有名になりました。母は大好きなこのノクターンを自宅でよく弾いており、キャバレロの演奏と共に幼い頃絶えず耳にしていた特別な曲です。ピアノを習い始め、いつかこの曲を弾ける時がくるのかと期待を持って練習していましたが、ピアノへの道を決めた中学生の頃には受験の準備のことでノクターンのことは頭から消え去り、いつしか母も弾かなくなっていました。

 大学を卒業後、奏法やピアノ指導に悩んでいた頃、カナダのバンクーバーへ英語留学をしたことがあります。同時にピアノを続けたいという思いから、ピアノを持っておられるお宅で練習させて頂いていました。ある日のこと、私は長年忘れていたこのノクターンを練習していた折、そこのお宅のおばあ様がいつのまにか私のそばに来られ、「日本人がショパンを弾いているの!?」と。彼女はカナダへ移住して来たポーランド人だったのです。「もう何年も忘れていました、祖国を思い出します。もう一度弾いてくださる?」。私はまだ英語がよく理解できませんでしたが、とても感動して聴いて下さっていることは確かに感じることができました。その後、彼女のお友達も来られ、練習不足で恥ずかしいなどと思う間もなく夢中で弾きました。その時の部屋にはなんとも温かい空気が漂い、弾き終えると私は今までにない親近感に包まれていたことは忘れられません。この経験がもう一度純粋にピアノの音色を追求したいと思うきっかけとなりました。

 時や場所を超えて、人々をつなぐ秘めたるパワーを持つことが歴史の中で名曲と言われる由縁ではないでしょうか。