ショパン国際コンクール(33)まず構想、それから音をー審査員 海老彰子先生
第17回ショパン国際コンクール審査員を務められた海老彰子先生。審査席前列中央で真摯に耳を傾けていらした姿をライブ映像でご覧になった方も多いでしょう。今回はアジアから多くのピアニストが参加し、日本からも12名が出場しました。先生はどのようにお聴きになったのでしょうか。今月下旬から始まる浜松国際コンクール審査員長を務める海老先生ならではのご意見をお伺いしました。(二次予選終了後)
今回、日本人ピアニストの方は1名のみ三次予選進出(ファイナリストの小林愛実さん)となりました。皆さん精一杯演奏されてはいましたが、海老先生はどのようにお聴きになっていらっしゃいましたか。また今後どのような課題を意識して学べばよいでしょうか。
音と音の間に音楽が存在すること。音と音との相対関係がどうなっているか。そのような認識が少ないかもしれないですね。1曲に色々な場面が出てくるわけですが、その変化が少なく、言いたいことの表現が一つになってしまうので平面的な印象になりがちです。また、音の出し方ももう少し考える必要があると思います。
解釈ありきの音ですね。
そうですね。まず音が弾けてから何かつけようとしている感じがなくもない。まず構想があり、計算されてから(音が)できるわけなので、順番が違っていると思います。
学ぶ順番はとても大事ですね。
小さい時からの教育だと思うのですが、何をイメージしながら音を出しているのかに拠ると思います。まず1音を弾けるようにさせるより、まず「その1音が何を言いたいのか」を想像させて、想像力豊かにすることが大事ですね。
海老先生はフランスで音楽教育を受けていらっしゃいますが、昔と今とで音楽へのアプローチは変わりましたか?
演奏はどんどん変わっていかなくてはなりません。やはり音を聴き、そこに何を感じるかが大事だと思います。私はフランスに留学してから時間が経っていますが、やはりいつでも(より良い音を)探さなければならないと感じています。今の16ー20歳くらいの若い方々があれだけ感性豊かに弾けるのは素晴らしいですし、指導者の先生方も素晴らしいですね。あとは自分自身でもがきながら、どのようにアーティストとしての自己を創っていくかだと思います。
才能、感受性、テクニック・・・今はどの国も優れていますね。アジアからも多くの才能が出ていますが、学ぶ順番が合っているかどうかが演奏に大きく反映されていたと感じました。音楽の見方が表層的だと、結局、歴史や社会の見方なども表層的になってしまいますね。
これは大きな問題ですね。小さい頃の指導に課題があるのかもしれません。
幼少期教育は今後さらに重要なテーマになりますね。11月下旬からは、海老先生が審査員長を務められる浜松コンクールが始まります。今回応募された449名の演奏を全て聴いたご感想はいかがでしょうか。
感覚は年々変化していて、今現在活躍している音楽家たちが彼らの関心になっている気がします。それはいいことなのですが、それに加えて、昔からの伝統あるものを聴いてもその良さを分かる感覚を育ててもらいたいですね。テンポが速いのも、若い時は元気なので素晴らしいエネルギーを発揮していらして良いと思いますが、歴史を理解した上で判断して、最も普遍的なバランスの良いところを取ってほしいと思います。
今回選抜された21か国1地域87名の若いピアニストたちは、どのような演奏を聴かせてくれるでしょうか。とても楽しみですね。貴重なお話をありがとうございました。
◎写真:「社会の中でも、音楽を好きな方と全く関係ない方とでは、物事を見る時や判断する時の感覚が違うと思うのです」と仰る海老彰子先生。
こちらは優勝したチョ・ソンジンさんと。
◎第9回浜松国際ピアノコンクール(11月21日ー12月8日・静岡県浜松市)