ピティナ調査・研究

ショパン国際コンクール(27)詩的な演奏が増えたー審査員長ズィドロン先生

第17回ショパン国際コンクールにおいて、初めて審査員長を務められたカタジーナ・ポポヴァ・ズィドロン先生。2005年には優勝者ラファウ・ブレハッチを輩出し、2010年にはファイナリストのパヴェウ・バカレツィを指導しています。ズィドロン先生のインタビューをお届けします。


今回のコンクールでは初めて審査員長をお務めになりました。全体の印象はいかがでしょうか?

ピアノのレベルはとても高かったです。優れたピアニストが日本を含むアジアからもたくさん出てきました。個性という点では、前回の方が豊かでしたね。ダニール・トリフォニフ、エフゲニ・ボジャノフ、インゴルフ・ヴンダー、ユリアンナ・アヴデーエワなどがいましたから。

今回出場者のタイプは、次の3つのグループに分けられると思います。

一つ目は詩的な演奏です。特にカナダ・アメリカのピアニストに見られますが、遅いテンポでゆっくりと旋律を奏で、柔らかい音を生み出し、詩的な雰囲気を創り出しています。

二つ目は、クラシカルで、良い意味でアカデミックな演奏です。ショパンの作品に関して深い解釈を示し、何か新しい解釈や効果を生み出そうというのではなく、特別なことをしなくても良い雰囲気を演出することができています。

三つ目は自分の個性を最大限に出す演奏です。内なる高いエネルギー、音楽言語にオリジナリティが見られました。ゲオルギス・オソキンスなどは、前回のボジャノフの再来のようですね。(ショパンの精神はどう反映されていると思いますか?)ショパンは即興の人でした。カプリチオーゾ的要素ともいえるでしょうか。一瞬一瞬新しいアイディアを生み出していくことは、もしかしたらショパンに対する適切な姿勢なのかもしれません。私自身は自発性の高い演奏を楽しみました。ステージ上で即興することは常に成功するとは限らず、聴き手にとっては難しいこともあるでしょうが、彼らはそうしたリスクを取ることを恐れていません。

ショパンコンクールの優勝者は、若い世代のピアニストに新しい方向性を与えるだけの影響力を持っていると思います。前回優勝者のアヴデーエワさんの再来のような演奏は見受けられましたか?

アヴデーエワさんは強いパーソナリティで、模倣するのは難しいですね。クラシカルな面があると同時に、高い創造力と深みも見られました。一次・二次予選にはそのようなタイプを見かけましたが、今回のファイナリストに同じような方はいないと思います。

では、今回のコンクールから生まれる新しい伝統は何だと思われますか?

2020年には詩情性、詩的な演奏が増えそうですね。まだそれほど強く影響を及ぼす演奏はありませんが、とても魅力的ですし、この傾向は将来も続いていくでしょう。その瞬間、その時間が流れるのをただ楽しみ、その瞬間が永遠に続いていくような・・。(瞑想のようですよね)まさに瞑想や熟考といったものに強く結びついていますね。

マズルカやワルツなどの舞曲に関してはいかがでしょうか?

ワルツはチャーミングで華麗でエレガントな曲ですが、現代の若者世代のダンスとは結びついていないので、どの演奏も速く、適切なテンポを避けているようでもありました。もちろん良いワルツの演奏もありましたが。マズルカはワルツより良かったですね。マズルカは単なるダンスとは違い、多層的な意味合いがあります。追憶であり、様々な感情であり・・。たとえば私個人はOp.56を、幻想ポロネーズにならい、「幻想マズルカ」と呼んでいます。マズルカと即興的な幻想曲のような性格があります。また今回のコンクールではOp.59が人気がありましたが、マズルカの後期作品には、舞踏的な性格とすでに舞踏ではない性質が見られます。

マズルカも含め、この5年間でショパンの作品解釈は深まっていると思いますか?

ええ、深まっていると思います。決して表層的な理解に留まるのでなく、ショパン作品の本質に迫ってきています。ショパン個人やポーランドの歴史について調べたり、当時の空気感を把握したり・・。クリスティアン・ツィメルマンいわく、ショパンの作品はまず彼自身の感情が反映されたものなので、演奏家はその瞬間に立ち戻ることで、説得力ある演奏が生まれると言っています。ショパンを演奏する時は、まず自分自身がショパンだと思うのがよいのかもしれませんね。

調査・研究へのご支援