ピティナ調査・研究

ショパン国際コンクール(26)決勝3日目 耳がすべてを創る

第17回ショパン国際コンクールは、昨日20日をもって全審査が終了しました。第一次予選が遠い昔のようでもあり、それだけ多くのピアニストの情熱と意気込みがつまった18日間でした。

ショパンはその鋭い耳の感覚をもって、自分独自の音楽の世界を切り拓きました。ワルシャワで作曲技法を教えた恩師エルスナーは、ショパンの独自性についてこのように述べています。

・・・1827年。音楽学校の1年生で、もうショパンをきまった課程にしばりつけることはできなかった。ショパンが枠にはまらぬと非難する者に対し、エルスナーは「放っておけ、彼がありきたりの道を歩かないのは本当だ。それならば、彼の才能もまたありきたりではないのだ。君は彼が法則に立脚していないというだろうが、彼は自分のものをもっている。彼は自分の創造性で評価されるようになるだろう」と言っている。・・・(『ショパンの手紙』p26解説より)

そこでファイナル最終日は「耳がすべてを創る」という点から。


64番ディミトリ・シシュキン(ロシア)はピアノ協奏曲第1番Op.11第1楽章を、魂の輝きのようにブリリアントな音で始めた。オケとの共演は初めてだそうだが、拍感が安定していて推進力もある。このコンチェルトを演奏するにあたり、単にオケと合わせるということではなく、楽譜を読む段階からオケの音を合わせた響きを頭の中で再構築し、実際の音空間で自らをコントロールする力量もある。第2楽章の主題も極めて美しい!個の音を際立たせながら、過度なルバートはかけず、各楽器のソロパートとも対話しつつ、全体でハーモニーを創っていくという意思が見える。曲のテンションの高まりも自然。この絶妙なバランス感覚は耳の鋭さだろう。第3楽章は舞曲のリズム的特徴を強調せずに流麗さを出すが、もう少しスケルツォ的な要素も欲しかった。しかし全体として素晴らしい構築力を見せた。未来の響きを提案する23歳!
※ピアノ:ヤマハ(photo:Wojciech Grzędziński NIFC)

59番シャルル・リシャール・アムラン(カナダ)は唯一ピアノ協奏曲第2番Op.21を選択。勢いのある冒頭のパッセージから始まる。オケとの音量バランスや呼吸の一致を考え、自らはやや控えめ気味に徹したか。第2楽章も、安定した拍感の中で豊かにフレーズを膨らませるが、初恋のきらめきのようなはじける瞬間の表現ではなく、全体バランスを考えた整然とした美である。第3楽章も民族舞踊らしい心躍るような素朴さよりも、終始洗練されていた印象だ。ソロリサイタルも含め、さすがに2位の実力を示した。成熟した美を追求する26歳!
※ピアノ:ヤマハ

77番イーケ・トニー・ヤン(カナダ)は若々しさをあふれるこのピアノ協奏曲第1番Op.11で、力を発揮したかったことだろう。第1楽章はフレーズがやや唐突な箇所があったり、全体の流れが少しぎこちない箇所もあったが、ソロではたっぷりと豊かに歌い上げる。第2楽章にもそれは生かされ、やはりソロリサイタルでも聴かせた透明感ある音で自然な歌心を感じさせた。第3楽章は心躍るような舞曲というよりは、哀愁漂うマズルカ的な雰囲気を出したのか、または息切れしたか、ややエネルギーを使い果たした印象はある。まだオケ全体を聴いたり、全プログラムを余裕もってこなすのは難しいと思うが、特にソロリサイタルでは若干16歳ながら素晴らしいハーモニーのバランス感覚を見せた。5位は将来への期待の現れだろう。まだまだ伸びる原石の16歳!
※ピアノ:ヤマハ

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