ピティナ調査・研究

ショパン国際コンクール(23)決勝2日目 誰と、何を語り合うのか

左奥はショパンの心臓が眠る聖十字架教会、右は地球儀をもつコペルニクス像。世紀を超えて語り合うポーランドの偉人たち

ショパンコンクール・ファイナル2日目。本日の3名もピアノ協奏曲第1番Op.11である。ショパンがコンチェルトを書いたのは1830年、20歳の夏だった。

「新しいコンチェルトのアダージオ(第2楽章)はホ長調だ。これは強烈な効果をねらっているものではない。むしろロマンティックな、静かな、やや憂鬱な、それでいていく千という幸福な思い出を呼び覚ますような、一点を静かに見つめるような印象をあたえようとしているのだ。春の美しい月光をあびた瞑想のようなものだ。」(『ショパンの手紙』p71)

ショパンはコンスタンツィアに恋心を抱き、ワルシャワ最後のコンサートでは彼女と同じステージに立ち、ワルシャワ出発前には公園で語らいながら将来を約束した。まさに朧月夜のような束の間の儚い夢がこの音楽に宿っている。そこで今回は「誰と、何を語るのか」という点から。

53番ゲオルギス・オソキンス(ラトヴィア)は第1楽章冒頭の上行パッセージの最高音Eが鍵盤をやさしく撫でて慈しむような音で、これが曲全体の雰囲気を決めた。パッションとインスピレーションが先走り、オケと互いに呼吸を合わせるのが難しそうな箇所もあったが、歌うようにフレーズのニュアンスを微妙に変えたり、ソロパートの夢見心地な表現は秀逸。第2楽章も優しく歌い始め、espressivo、agitatoと次第にエネルギーが高まりためらいない表情に、またファゴットソロとの対話は月光の下での語らいのようでもあった。第3楽章は思いきりよく、細かいフレーズにも表情をつけて生き生きと。二次予選ワルツやロンドでも見せた遊び心にも通じるリズミカルな高揚感に満ち溢れ、最後はオケとも一体化してフィナーレを迎えた。詩人にもなりきれる20歳!
(photo:Bartek Sadowski NIFC)※ピアノ:ヤマハ

47番シモン・ネーリング(ポーランド)一次予選から"語り手"として優れた能力を発揮していたが、このファイナルのステージにおいて彼自身最高の演奏を見せた。第1楽章冒頭から堂々とした和音で印象づけ、フレーズの最高音がピン!と際立って聴こえてくる。第2楽章では、彼の音と相性の良い金管との対話や、ヴァイオリンの醸し出すうっすらとした朧月夜のような背景に溶け込んでいく様など、オケとも良いコミュニケーションを築いた。agitatoでの曲調の変化も感じ取り、起伏に富む語り口だった。第3楽章はアクセントやリズムの特徴も明確にスケルツォらしさを思いきり出す。際立って聴こえてくる上声の最高音は歓喜の感情の頂点を表しているようで、コンチェルト全体から歓びの表情が見えてきた。勢いにのる20歳!
(photo:Wojciech Grzędziński NIFC)※ピアノ:スタインウェイ

35番エリック・ルー(米国)は清純で透明感あふれる音で、若者らしいフレッシュなコンチェルトを披露した。ショパンがこの曲を書いた時、コンスタンツィアの一瞥にどぎまぎしたり、想いを打ち明けられずに戸惑っていた年頃。特に第2楽章はそんなショパン自身の恋心との対話のように、自然で作為のないフレージングで、夢見るように奏でられた。第3楽章も膨らむ想いが一気にはじけた高揚感があった。歌う知性派の17歳!
(photo:Wojciech Grzędziński NIFC)※ピアノ:スタインウェイ