ピティナ調査・研究

ショパン国際コンクール(18)三次予選3日目 心が映し出すもの

ついに三次予選最終日となりました!本日は6名のピアニストが登場し、情熱あふれる演奏を披露しました。やはりソロリサイタルは、プログラムにも、演奏にも各自の個性が明確に出ます。それぞれどのようにこれまでピアノに向き合ってきたのか、ショパンに向き合ってきたのか。中には演奏そのものが自分の心との対話である人もいるでしょう。すでに結果は出ましたが、今回は「心が映し出すもの」という点から、印象的な演奏をピックアップしてみました。

76番ジ・シュー(中国)は心の葛藤のようなプレリュードOp.28-14から!この意外性は、60分のプログラムが進むにつれて納得に変わっていった。15番(雨だれ)以降も自分の心理を探るように展開され、23番歩みを緩めて奏でられたメロディは天にも昇りそうな幸福感に包まれ、24番も勢いだけでなく自問自答しながら締めくくられる。ただし、まだ道半ばである。続くマズルカOp.41-1は、プレリュード最後で3度鳴らされるバス音Dに呼応するかのように、同じ音質で、上声Disが繰り返し連打される。ここに強いメッセージ性が潜む。同胞の詩人ヴィトフィッキに捧げられたこの曲(群)で、右は心の叫びを、左手と内声は高まる郷里への思いのようだ。Op.41-4は素晴らしいハーモニーのバランスを見せ、最後はOp.41-1と同じ哀愁を纏って終わる。ソナタ3番Op.58は音楽と対話するような第1・2楽章を経て、第3楽章では深みある美しい音で心の問いかけを繰り返し、最後は答えが見つかったように決意に満ちていた。終楽章は全てを吹っ切ったように、プログラム全体のフィナーレを迎える。※ピアノ:ヤマハ

64番ディミトリー・シシュキン(ロシア)はディテールにまで鋭く目と耳を傾け、自らの感性で響きを再構築しようとする姿勢が伺える。即興曲1番―4番は玉を転がすような美しい音、フレーズのつくり方も緻密で、それぞれが躍動している。2番は転調の瞬間にも色合いが変わり、中間部は煌びやかな鐘を鳴らしているかのような音で、極彩色のロシア童話が目の前で展開されていくようである。3番は細い支流が大河へ注ぎこむように、細かいフレーズが大きなフレーズへと繋がりテンションを高めていく。幻想即興曲で華やかに即興曲を締めくくった。マズルカOp.59はロマン派から一歩出て、近現代を聴いている感覚に陥る。ソナタ2番Op.35も響きが新鮮で、第2楽章はやや金属的な音を執拗なまでに強く響かせ、第3楽章は淡々と流れるような中間部の音の美しさが際立つ。第4楽章では新しい音響の世界が眼前に迫ってきた。一貫して、独自の美意識の世界を見せてくれた。
※ピアノ:ヤマハ(photo:Wojciech-Grzędziński-NIFC)

59番シャルル・リシャール・アムラン(カナダ)はふんわりと包み込まれるようなフレージングのプレリュードOp.45から始まった。舟歌Op.60もフレーズが自然で高揚感があり、舟歌の魅力を十分に引き出してくれる。マズルカOp.33も奇をてらうことなく、3番などはマズルカの素朴さを生かしながらパリの洗練をちょっと加味したようなさじ加減が絶妙である。4番はリズムを歯切れよく、再現部はややテンポを緩め4曲分の哀愁を込めた。ノクターンOp.62-2も心地よく、ソナタ3番Op.58は包容力を感じさせる雄大な音楽で、第3楽章は幸せな過去を振り返っているような追憶の表現が秀逸。勢いある第4楽章でプログラムを締めくくった。曲間の聴衆の咳払いにもにこっとする余裕があり、音楽同様、誠実な人柄がにじむ。
※ピアノ:ヤマハ(photo:Bartek Sadowski NIFC)

7番ルイジ・カローチャ(イタリア)は心からほとばしり出る即興曲Op36から。マズルカOp.30は彼なりの感覚で捉えたか。Op.30-4などは哀愁よりもイタリアの官能性を帯びていた印象。プレリュードOp.28は気迫に満ちあふれていた。まるでオムニバス映画のように1曲1話ずつ連綿と連なっていく。恐らく彼が見ている情景は心像風景であろう、幸福感、葛藤、激情、喜び、回想、夢見心地など、どれも心の奥で感じたままを表現している。本調子ではなかったと思うが、和声感や音質の幅広さ、想像力に優れ、彼の表現したい世界の奥深さがじわりと伝わってくる。※ピアノ:ヤマハ

77番イック・トニー・ヤン(カナダ)は音色のコントロールが素晴らしく効いている。ボレロやマズルカなどの舞曲でペダルが多いと思われる箇所もあったが、軽やかに踊るように。とても16歳に思えない落ち着いた呼吸は、ソナタOp.35の中間部などでも十分に生かされていた。一次予選から見せていた素晴らしい資質はこれからもどんどん開花するだろう。※ピアノ:ヤマハ