ピティナ調査・研究

ショパン国際コンクール(16)三次予選2日目 夢か幻か、新境地か

三次予選2日目。いよいよソロリサイタルも残すところ僅かです。ショパンは1830年代半ばまで演奏会に出ていましたが、それ以降は次第にステージから姿を消し、創作活動に没頭するようになりました。ショパンの頭の中で鳴り響いていたのは、現実を忘れさせてくれる夢のような響きや、現世を超越したかのような斬新な響きもありました。そんな音を再現してくれる演奏に出会うと、我々もその世界観を感じることができますね。そこで今回は「夢か幻か、新境地か」という点で、印象的な演奏をピックアップしてみました。

53番ゲオルギス・オソキンス(ラトヴィア)は子守唄Op.57から始まり、覚めぬ夢のような世界を披露した。マズルカOp.59は二次予選ワルツで見せたような洒脱な表現も見られたが、こちらはもう少し自然な方がマズルカらしい美しさが出たかも。即興曲Op.51は流れるように美しい。ソナタOp.58は煌めきと華やぎある音でテーマが呈示される。どこか現実でない、夢の世界のようでもある。左手でニュアンスを創りながら右手で自在に旋律を操る様も見事。同じような音で奏でられる第2楽章も近代的で新鮮な響きに聞こえた!重々しいラストのまま、ゆったりと第3楽章へ。中間部はやや速めのテンポでよどみなく歌い、左手では微妙な和声の変化を音に反映させて、静かにテンションを高めていく。2回目は表情も歌い方も変えて。第4楽章も輝きある音で終えた。これら後期作品が書かれたのは1843年ー1845年頃、ショパンの実生活では試練多き年であったが、オソキンスは非現実なまでに美しい万華鏡のような音の世界を見せてくれた。覚めやらぬ夢のように、ワルツOp.18,42で華やかにフィナーレ。
※ピアノ:ヤマハ

34番ケイト・リュウ(米国)は例によって大変長い呼吸とフレーズを持つ。瞑想のように空(くう)を見つめながら演奏される音楽は、どこか時空間を超越している。幻想ポロネーズはポロネーズのリズムが心地よく刻まれる一方、旋律も豊かに奏でられ、幻想とポロネーズの両要素が融合している。テーマやモチーフが繰り返される度にどんどん内なる世界に入っていき、再現部は一気に外界へ飛び出すようにコーダへ。即興曲Op.51も空想の世界を描くように。そして静かにふっと現実に戻ってきたように始まるマズルカOp.56-1、Op.56-2では力強く大地を踏み鳴らし、Op.56-3はニュアンスたっぷりに哀愁帯びた旋律を歌う。ソナタ3番Op.58は長い呼吸を生かした雄大な音楽で、第2楽章はスケルツォらしい軽やかさ、第3楽章の中間部はソプラノだけを響かせながら自分の内なる声と対話しているような中間部、第4楽章はテーマが繰り返される毎に厚みを増していく。一次予選からどのステージも全く呼吸が乱れず、彼女独特の世界を創り上げている。
※ピアノ:ヤマハ

35番エリック・ルー(米国)は落ち着いた呼吸と、優雅で感性豊かな音楽性が身体に宿っている。マズルカOp.59-1はフレーズの膨らませ方、収め方に気品があり、Op.59-3の2・3拍目の間もちょうどよく、3拍目のアクセントも自然である。プレリュードOp.28も気品あふれる1番から始まり、7番、10番、13番、15番、17番、19番、21番、23番など、マヨルカ島の輝く陽光のような明るい音で音楽に光を当てていく。ショパンにとってのマヨルカ島は異次元のような世界。突き抜けるような美しい音は、ショパン自身の感動を伝えてくれる。この感性の豊かさをもってさらに細かい音の層を発見し、より多彩な表情を表現してくれそうで期待が高まる。
※ピアノ:ヤマハ(photo:Bartek Sadowski NIFC)

35番エリック・ルー(米国)は落ち着いた呼吸と、優雅で感性豊かな音楽性が身体に宿っている。マズルカOp.59-1はフレーズの膨らませ方、収め方に気品があり、Op.59-3の2・3拍目の間もちょうどよく、3拍目のアクセントも自然である。プレリュードOp.28も気品あふれる1番から始まり、7番、10番、13番、15番、17番、19番、21番、23番など、マヨルカ島の輝く陽光のような明るい音で音楽に光を当てていく。ショパンにとってのマヨルカ島は異次元のような世界。突き抜けるような美しい音は、ショパン自身の感動を伝えてくれる。この感性の豊かさをもってさらに細かい音の層を発見し、より多彩な表情を表現してくれそうで期待が高まる。
※ピアノ:ヤマハ(photo:Bartek Sadowski NIFC)

30番ルーカシュ・クルピンスキ(ポーランド)も旋律の美しさは優れている。拍感がやや自由で冗長になってしまうこともあるが、幻想ポロネーズ、エチュードOp.25-7、ソナタ2番Op.35第3楽章など、夢のように美しい瞬間を演出してくれた。※ピアノ:スタインウェイ

写真:一次予選で日本人トップバッターを務め、熱演を披露した古海行子さん。「二次予選からずっと聴いています。ショパンコンクールは自分が弾いてというよりも、他の方の演奏を聴いてみて、日本にいては分からないような外国の雰囲気を感じることができました。海外のコンクールでは、自分の中から出てくるものが評価されている印象で、楽譜通りではないかなと思ってもそちらの方が曲の本質を捉えていることもあったり。毎日色々な演奏を聴けて楽しいです」三次予選会場にて、一皮むけた笑顔でにっこり。ちなみに宇宙の本を読むのが好きだそうです。

調査・研究へのご支援