ピティナ調査・研究

ショパン国際コンクール(15)三次予選1日目 静かなクライマックス

いよいよ第三次予選が始まりました。一次予選、二次予選を経て、各自が自信をもってステージに臨みます。各ピアニストの個性がいよいよ第三次予選が始まりました。一次予選、二次予選を経て、各自が自信をもってステージに臨みます。各ピアニストの個性が最大限に発揮される場において、どれだけ強い印象を残せるか。それは決して強い音や速いパッセージの瞬間ではありません。音楽をどう解釈するのかが先にあり、そこからどんな音が導き出されるのか、そしてどこをクライマックスとするのか。それは曲のエネルギーの高まりの頂点であり、その表現によって聴衆はぐいっと耳を引き付けられます。時には、静けさの中にこそクライマックスがあることも。そこで今回はプログラム全体を通して、「静かなクライマックス」の点から印象的な演奏をピックアップしてみました。最大限に発揮される場において、どれだけ強い印象を残せるか。それは決して強い音や速いパッセージの瞬間ではありません。音楽をどう解釈するのかが先にあり、そこからどんな音が導き出されるのか、そしてどこをクライマックスとするのか。それは曲のエネルギーの高まりの頂点であり、その表現によって聴衆はぐいっと耳を引き付けられます。時には、静けさの中にこそクライマックスがあることも。そこで今回はプログラム全体を通して、「静かなクライマックス」の点から印象的な演奏をピックアップしてみました。

10番チョ・ソンジン(韓国)は完璧なまでのテクニックと構築力、感性がある。マズルカOp.33では、洗練された旋律の歌い方やリズムの刻み方を見せた。プレリュードOp.28はすべてが緻密にコントロールされた世界。24曲それぞれの特徴を引き出し、2番・4番の左手で作られる陰影や色彩の変化、3番・10番・19番の右手の軽やかさ、16番・24番の推進力、そしてクライマックスは15番(「雨だれ」)だろうか。それまでとは違い、抜けるような明るくクリアな音で晴れやかに旋律が歌われた後、対比させるように、中間部のオスティナートと内声で不気味さを出し、そしてまた晴れやかな音に戻る。この突き抜けた明るさ、そして静けさの中に高度な集中力と内面的な思索があり、ここが24曲全体の精神的なクライマックスだったような気がする。また関連性がある曲同士は繋げ、決然とした和音で締めくくられる曲の後は間を置くなど、プログラム全体としてのフレージングも考えられ、全体のストーリー性もあった。最後は勢いあるスケルツォ2番で締めくくられた。
※ピアノ:スタインウェイ(photo:Wojciech Grzędziński NIFC)

27番小林愛実さんは即興性に優れている。ロンドOp.16はぐっとつかまれる序奏から、主題が華やかに軽快に展開していく。ちょっとした節回しにふわっと新鮮な息吹が吹き込まれ、曲全体が生き生きしている。ソナタ2番Op.35は雄大な捉え方を見せたが、クライマックスの瞬間がやや多く、一歩引いて曲を見るとより効果的にfやffを出すことができそうだ。しかしプログラムのクライマックスは、劇的なソナタ2番の後に静かにやってきた。マズルカOp.17は左手が曲に細かいニュアンスを与え、それに支えられながら、右の旋律は自在に戯れる。特にOp.17-3は和音の色彩感に独自の感性が生かされ、Op.17-4は左手でうっすらマズルカのリズムを刻みながら、右はポーランドの空気と戯れるかのように、表情豊かに奏でられていく。その場で即興的に新しい音楽の息吹が吹き込まれていくかのように、大変美しい瞬間だった。最後のスケルツォ1番も激しい主題から、郷里への想いへといざなわれるようにして迎える中間部の美しさなど、インスピレーションに溢れた演奏!
※ピアノ:スタインウェイ(photo:Wojciech Grzędziński NIFC)

26番ディナーラ・クリントン(ウクライナ)はやはり濃厚な歌い手だ。マズルカOp.30-1は左の2、3拍目は軽やかだが確かに大地を踏みしめている感じで、その上に哀切たっぷりの旋律を歌い上げる。Op.30-2はニュアンスたっぷりに、Op.30-3はディナーミクのコントラストをたっぷりと、Op.30-4はテンポをかなり抑えて陰鬱な表情だが、やや暗すぎな印象。ソナタ2番は第1楽章序奏・主題から濃厚な歌い方だが、全てを濃厚に味付けすると逆に単調な印象になってしまう。しかし第3楽章の中間部はただ時が流れていくのに身を任せるように淡々と旋律を奏でる、それが力の抜けた美しさを演出していた。この静けさが一つのクライマックスだろう。うめき声のような第4楽章の後は、その余韻を残したままエチュードOp.25-7へ。二次予選で弾いた前半6曲の続きである。Op.25-10, 12 などもありったけのエネルギーを注ぎ、哀愁のマズルカc-mollで始まったプログラムを力強いエチュードc-mollで終えた。二次予選に続き、ここでもプログラムのストーリー性があった。
※ピアノ:スタインウェイ

17番チー・ホー・ハン(韓国)は誠実に楽曲の姿を捉えようとしている。マズルカOp.59-1はテーマのフレーズがふわりと空気を含んだ繊細さで美しい。Op.59-3もメロディをよく聞いている。英雄ポロネーズは正統派のアプローチ。プレリュードOp.28は落ち着いてゆったりとした幕開けの1番から。左手の弱音やレガートとのコントロール、和声の変化をより意識すると、さらに細かいニュアンスが生まれそうだ。クライマックスは18番に。最高音Fに入る間の取り方、最後の和音も十分にためてからfffで打鍵された。この間の絶妙な取り方に、音以上のエネルギーの高さがあった気がする。19番以降は新たな命が吹き込まれて再出発した印象だ。22番は燃え盛るように、23番はテンポを緩めて湖面が輝くように、そして24番は全てを振り返りながら決然とバス音Dが三度鳴らされる。全体構成が考えられた演奏だった。
※ピアノ:スタインウェイ(photo:Bartek Sadowski NIFC)

23番スーヨン・キム(韓国)は心が洗われるような美しくなめらかなノクターンOp.48-1、そのまま流れるように始まる舟歌は、夢想のような境地へ向かってゆったりと音楽が漕ぎ進められる感じ。マズルカOP.24はリズムよりもメロディに意識が向いているようだが、感性豊かでニュアンスに富む。ソナタOp.58は構成とストーリーの流れが分かりやすい音の出し方で、すっと耳に入ってくる。第2楽章スケルツォの軽やかさから最後の重々しさを持続して始まる第3楽章では、美しい夢を見ているように。自分の心で音楽を受けとめてから音を鳴らしている、そこに彼女のクライマックスがあったと思う。最後はやや息切れした感じだが、全体を通して透き通るような音と感性の良さを見せてくれた。