ピティナ調査・研究

ショパン国際コンクール(13)二次予選4日目 ふんわり呼吸するフレーズ

二次予選最終日を迎えたショパンコンクール。ニュアンスある柔らかい雰囲気の演奏が多く出ました。ふっと肩の力を抜き、思考から解き放たれて、音楽が自然に流れ出ていくのに身を任せた時、フレーズは大きな円弧を描いて聴衆に届きます。そこで今回は「ふんわりと呼吸するフレーズ」という点から、印象的な演奏をピックアップしてみました。

76番ジー・シュー(中国)は質の良い和声感を生かしたプレリュードOp.45。緊張感ある張り詰めた高音や、ふっと間を絶妙に取ってから下行するカデンツァなどが極めて美しい。この曲の魅力をあますことなく見出した。最後音の左手と同じ音域から、プレリュードの雰囲気を残しながらポロネーズOp.44が始まる。リズムの特徴よりも、中間部の戯れるようなフレーズが印象深い。ワルツOp.42はふわりと浮き上がるように、こちらもリズムの特徴より旋律の優美さを強く感じさせるチャーミングなワルツ。幻想ポロネーズは序奏から不可思議な雰囲気を醸し出す響きのつくり方で、ちょっとした音色の変化も敏感に感じ取り、それが陰影を生んでいる。再現部は序奏とは異なり、決然と。個性を十分に発揮したプログラム構成も素晴らしかった※ピアノ:ヤマハ(photo:Wojciech Grzędziński NIFC)

77番イック・トニー・ヤン(カナダ)
舟歌は響きに透明感があり、瑞々しい生命力がある。ワルツOp.18は柔らかく軽やかでスマートなワルツ。スケルツォ3番に続き、即興曲Op.36は陰影があり、思索的でもある。英雄ポロネーズOp.53は正統派なアプローチで、中間部のメロディの歌わせ方には風情が感じられた。邪念なく、音楽の中に自然にすっと溶け込む。音に対する感覚も鋭敏で、若干16歳とは驚き!

72番チャオ・ワン(中国)はノクターンOp.27-1のメロディの歌い方が大変美しい。ちょっとした音質の変化や間が、音楽にニュアンスを与えている。呼吸が安定しているからできることだろう。その雰囲気のまま、ノクターンOp.27-2も同じようにゆったりして美しい。バラード2番は静けさと激しさの対比を過度に強調せず、あくまで優美な表現に。ワルツOp.34-3はやや生真面目に遊んでいる感じ。アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズも含め、左右のバランスが良く、ふわりとしたフレーズのつくり方、歌い方に独自の感性が光る。※ピアノ:カワイ(photo:Wojciech Grzędziński NIFC)

71番アレクセイ・ウルマン(英国)ワルツOp.34-3はちょうど良いテンポで左手の伴奏も心地よいリズムを刻み、洗練されている。ノクターンOp.27-1、Op.55-1も落ち着いた呼吸から放たれるフレーズが心地よく、ゆったりとして流れを作りながら右手が優雅に旋律を奏でる。なんともエレガント!バラード4番、英雄ポロネーズなどはもう少し肉迫してほしいと思ったが、ちょっとした節回しや間の使い方が優雅で上品であった。

69番アレクセイ・タルタコフスキー(米国)は幻想ポロネーズは一つ一つの音や響きはやや粗めだが、全体構成を踏まえた表現を試みている。中間部のたっぷりとした歌い方を経て、静寂の中で不気味に鳴り響く再現部などは、晩年近く病気も悪化したショパンの無意識下で鳴り響いていた音の世界のよう。スケルツォ3番も全体構成から各楽節の表現を導き出していく。ノクターンOp62-2やワルツOp.34-1などで旋律の流麗さやリズムの軽やかさを表現するよりは、大曲をがっちり解釈する方が合っているようだ。

二次予選最後の奏者は、日本の有島京さん。ノクターンOp.15-2やワルツOp.42など、ささやくような語り口で美しく歌う。それが最も生かされたのはガイヤールのマズルカである。アンニュイな雰囲気と独特なニュアンスが表現され、心にそっと響いてきた。
終演後、楽屋に駆けつけた三重野奈緒さん(左)と。三重野さんは涙が止まらなくなるほど感動したそう。記念にぱちり。

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