ピティナ調査・研究

ショパン国際コンクール(8)二次予選1日目 作品との対話、自分との対話

いよいよ43名による二次予選がスタート!二次予選ではポロネーズやワルツなどが加わる。作品の美しさのままに、あるいは自分の心のままに弾くのか。そこで今回は「作品との対話、自分との対話」という視点で、印象的な演奏をピックアップしてみた。

(c)Bartek-Sadowski-NIFC1

10番チョ・ソンジン(韓国)はすべての作品を俯瞰の視点で捉え、極めて優れた和声感覚、テクニック、自然な歌心で表現する。バラード2番、ワルツOp.34-3も比類なく美しい。ソナタ2番もさすがの構成力を見せた。弱冠21歳にして物事が俯瞰で見えているが、感動のあまり耽溺したり、相手が見えなくなるほど心を寄せた上で、離れて見るというプロセスではなく、音楽を等距離で冷静に見る姿勢から来るのだろうか。ぐっと力づくで迫ってくるのではなく、自分自身の自我を抑え、美しい音楽の姿をそのまま引き出そうする姿勢が本人の持ち味だろう。

23番スーヨン・キム(韓国)幻想曲は伸びやかで透き通るような音の感覚をもち、曲の展開がよく分かる音の出し方をしている。奇をてらわないすっきり洗練された表現。ワルツOp.34-1はやや速めだが、こちらもすっきり。アンダンテ・スピアナートはさらりといくが、華麗なるポロネーズは丁寧な読譜をもとに自身の心と結びついた音を出す。ショパンの曲はそのまま弾いても、そのまま素直に弾くのが美しい。そんなふうにも思わせてくれる素敵な演奏だった。

(c)Bartek-Sadowski-NIFC1

7番ルイジ・カローチャ(イタリア)はふくよかな音とポリフォニックな響きで、曲の美しさを最大限に引き出そうとする。幻想ポロネーズから始めるあたり、音に対するこだわりが感じられる。響きのコントロールもよく効き、透明感を出す部分と濁す部分にも音楽的判断がある。内声で奏でられるポロネーズのリズムにも気品があり、リズムの刻み方や響かせ方を変化させることでテンションを高めていく。幻想らしい揺らめきや、中間の陰影を帯びたコラールや旋律の歌わせ方も秀逸。コーダも大仰になり過ぎず、常に音のバランスや音質を意識しながらの、説得力ある演奏だった。バラード2番は静から動への表現の面白さ、また激しさの中にも美しい瞬間がある。英雄ポロネーズOp.53も中間部では軍隊らしい男性的イメージを演出するが、主題で奏されるポロネーズは記憶の中で鳴り響くかのように甘美である。可憐でチャーミングなワルツOp.18でフィニッシュ!

19番ジー・チャオ・ジュリアン・ジア(中国)は各テーマやモチーフの特徴を最大限に表現しようとするあまり全体像が曖昧になるほどだが、見方によってはコンテンポラリアートのようでもある。スケルツォ2番はフレーズがぱつっと終わったり、主題の展開にはもっと持ち前の発想力を発揮してほしかった部分も。子守唄は後半でいきなりテンポを緩めたが、突然画風を変えたかのようである。これはどこかへ繋がるのだろうかと思っていたら、次の幻想即興曲の中間部で同じような表現が登場した。この点描画のような表現方法に、本人の特別な思いがこもっているだろう。アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズは、フレージングやポロネーズのリズムを強調する箇所でやや不自然だったり唐突な印象は残るが、自らのインスピレーションに従い、最後まで情熱ほとばしる演奏だった。


ショパン自身は自問自答の人だった。21歳のショパンが帝国図書館に自分の手稿譜が所蔵されているのを目撃した時、200年後の我々から見ればあまりにも謙虚な感想を抱いている。ワルシャワの両親宛ての手紙より。

「昨日はケスラーといっしょに帝国図書館に行きました。古い楽譜手稿がきっとヴィ―ンでたくさん集まっているだろうから行ってみたいと、ずいぶん前から考えていたのですが、行けなかったとこなのです。・・・(中略)最近の手稿の部類にショパンと銘が打ってある一巻を発見したときの驚きをちょっとご想像ください。かなり厚い、立派な装丁でした。(中略)ハスリンガーがぼくの『変奏曲』(作品2)の手稿を提供していたのだということがおわかりでしょう。ぼくは「ばかやろう。ここに保管されるだけの値打ちのものがお前にあるのか!」と自問しました。」

(1831年ウィーンにて、ショパンからワルシャワの両親宛て『ショパンの手紙』p117)