ピティナ調査・研究

ショパン国際コンクール(7)一次予選を振り返って

一次予選では78名がそれぞれ熱演を聴かせてくれた。振り返ってみると個性派が多い印象だ。アナリーゼの学びが進んだためか、骨格を捉えた上で、自分なりの解釈を披露する演奏が多かった。そこで初回に倣い、「1音」「1フレーズ」「1モチーフ」「1曲全体」で印象に残った演奏をピックアップしてみた。

「1音」にどこまで表情を見出すか、1音は全体の中でどう生かされているのか?音や和声に対する鋭い感覚をもち、一音一音の意味を追求するという点では、ルイジ・カローチャ(イタリア)、リシャール・シャルル・アムラン(カナダ)、ジー・ウ(中国)、イック・トニー・ヤン(カナダ)、ディミトリ・シシュキン(ロシア)、スーヨン・キム(韓国)、須藤梨菜(日本)、イヴェット・ジョンジョルジ(グルジア)など。

「1フレーズ」でどこまで歌い上げるか?深く長い呼吸から、まるで歌うように、優雅で多彩なニュアンスに富むフレージングが生まれる。ディナーラ・クリントン(ウクライナ)、アレクシア・ムーザ(ギリシア/ベネズエラ)、ケイト・リュウ(米国)、中川真耶加(日本)などが印象に残る。

「1つのモチーフ」をどこまで変えられるか?ショパンは即興演奏が得意だったこともあり、同じことをただ繰り返すのを好ましく思っていなかった。モチーフが繰り返されるにしても、毎回必ずどこかが少しずつ違っている。その違いをどこまで意識できるか。アレクサンダー・ウルマン(英国)、アレクセイ・タラセヴィチ・二コラーエフ(ロシア)、小林愛実(日本)、竹田理琴乃(日本)などは、アプローチはそれぞれ違うものの、起伏に富む演奏だった。

「1曲」をどう解釈し、デザインするか?今回はアナリーゼに基づいた構成力、さらに個性的な解釈も増えた印象だ。洗練された構成力はチョ・ソンジン(韓国)、チー・ホー・ハン(韓国)、アレクセイ・タルタコフスキー(米国)、チェン・ザン(中国)、中桐望(日本)など。また個性的な構成力は、ジー・チャオ・ジュリアン・ジア(中国)、オローフ・ハンセン(フランス)、ジョルジー・オソキンス(ラトヴィア)などが強烈な印象を残した。目の前の音符を追うのではなく、まず曲全体の解釈から始まる。そしてテーマの表現が決まり、フレーズが考えられ、音が導き出される。説得力ある演奏はこのカテゴリから生み出されることも多い。

その他惜しくも二次進出できなかった中にも、素晴らしい才能や感性を持つピアニストが沢山いた。日本人ピアニストたちの堂々とした情熱あふれるステージも記憶に残る。

二次予選はどんな演奏が生まれるだろうか。本日9日から始まる。