ピティナ調査・研究

第17回ショパン国際コンクールが開催!

第17回ショパン国際コンクールが、いよいよ10月3日から開催される。ショパンコンクールが誕生してから88年。ショパンに対する想いや憧れ、そしてショパンコンクールというステージそのものが、様々なドラマを生み出してきた。第1回優勝者レフ・オボーリンから始まり、歴代優勝者は音楽史に名を刻むピアニストばかりである。今回も17名中10名の審査員が過去優勝者・入賞者である(1955年優勝アダム・ハラシェヴィッチ、1965年優勝マルタ・アルゲリッチ、1970年優勝ギャリック・オールソン、1970年入賞ピョートル・パレチニ、ヤヌシュ・オレイニチャク、1975年入賞ディーナ・ヨッフェ、1980年優勝ダン・タイ・ソン、1980年入賞 海老彰子、エヴァ・ポヴウォッカ、2000年優勝ユンディ・リの各氏)。

ショパンコンクール参加者一同

さて今回はDVD審査、予備予選を経て、世界20か国78名の精鋭がワルシャワで競演を繰り広げる。日本から参加するピアニストは12名!(有島京さん、小野田有紗さん、木村友梨香さん、小林愛実さん、須藤梨菜さん、竹田理琴乃さん、中川真耶加さん、中桐望さん、野上真梨子さん、古海行子さん、丸山凪乃さん、三重野奈緒さん)それぞれどのようにショパンと向き合ってきたのだろうか。事前取材できた6名のインタビューをご紹介したい。

コンクールのライブ中継はこちらへ
コンクールの全出場者はこちらへ
コンクールの開催日程はこちらへ


音楽との向きあい方を見つめ直して
中川真耶加さん(2014特級銀賞)
~ピアノと一緒に生きていくことを問いかけて
ショパンへの思いとコンクールに向けて

幼稚園や小学校のころからショパンの曲を聴いては、「もっとピアノを弾きたい」と思っていました。近現代を含めてレパートリーが増えていく中でも、ショパンはずっと自分の中に存在していました。国際コンクールは初めてですが、コンクールということに限らず、ピアノとの向かい方や、ピアノと一緒に生きていくとは?という人生観、どうしたら聴いてくださる方々に響くのか、作曲家に対してはどういう思いでいればいいのか等、広い意味合いで音楽との向き合い方を考えるきっかけになりました。楽譜やショパンに関する文献を参考にしつつ、そこから自分がどう考えるのかを掘り下げていくと、必然的に演奏にも反映されてくると思います。自分なりに楽譜から読み取り、色々尊重しながら、自分の心の動き方を信じて弾きたいと思います。

一番共感できる曲は?

どの曲も好きですが、即興曲3番Op.51は日常の生活にある幸せ、普通でいることの幸せが表現されている曲で、それは誰もが共感できるのではと思います。

小林愛実さん(2011福田靖子賞)
~自分で感じ、考えた音楽を
ショパンへの思い

今年7月にフランスのノアンで開催されたショパンフェスティバルに出演しました(前回優勝者ユリアンナ・アヴデーエワさん等出演)。ノアンにはショパンとサンドが住んでいた家があり、その中を見学したり、家の前にあるホールでショパンを演奏することができて、もっとショパンのことが知りたいとより強く思うようになりました。ショパンの楽譜や本を読んだりもしますが、場所からも得られるものも大事ですね。またフランスの聴衆もとても温かく、皆さんがショパンを心から愛しているのが分かりました。ワルシャワでも皆さんの前で弾かせて頂くのを楽しみにしています。

アメリカ留学生活について

2013年から米カーティス音楽院に留学しています。レッスンは週1回で、毎回違う曲を暗譜で持っていかなくてはならないので課題は多いです。アメリカの先生は「自分で考えなさい」という感じで、仕上がるまで教えこまずに、もう少しこうしたらいいのでは?とアドバイスを下さいます。先生方には色々教えて頂いていますが、やはり最終的に選んで決めるのは自分。ショパンコンクールにもその思いで臨んでいます。

木村友梨香さん(2012特級ファイナリスト)
~自分が向き合ってきた音楽を素直に
ショパンへの思いとコンクールに向けて

ショパンは昔から好きで、自分の中でも特別な存在です。ショパンコンクールほどの大きな舞台は初めで、特別な思いがあります。これまでは弾くことに一生懸命でしたが、毎日ショパンを勉強する日々の中で、あらためて音楽と向き合うことの大事さに気づかされている日々です。また準備の仕方も変わり、3年前にピティナの特級を受けた時は1次・2次予選など目先のことに集中していましたが、最後まできちんと仕上げておくことが全体のクオリティを高めるにも大事だと実感し、先生にもそのようにアドバイスを頂きました。

コンクールに向けて集中して勉強するのは当然ながら、それ以外にも、楽譜や本を読んだりして視野を広くもち、想像力を膨らませられるように心がけています。どの曲にも共感していますが、中でもノクターン17番Op.62-1はショパンらしくて好きです。4月の予備予選では、ショパンの心臓が眠る聖十字架教会に足を運び、気持ちをリラックスさせてから本番に臨みました。今回も結果のことを考えず、緊張をうまく集中力に変えて音楽の中にぐっと入りこみ、自分が向き合ってきたことを出せたらと思います。

ショパンに多く触れ、 ショパンが愛した地で弾ける喜びを
須藤梨菜さん(2005年福田靖子賞)
~ショパンが愛した母国で弾ける喜び
ショパンへの思いとコンクールに向けて

5年前に続き、2回目のショパンコンクールに出場できますことを心から嬉しく思っております。5年前は初めての出場で無我夢中で曲に向かっていたような気がします。私が初めてショパンの曲に取り組んだのが、小学生のころに受けたピティナ・ピアノコンペティション課題曲の中にあった、マズルカop.24-1でした。リズムの難しさを感じながらコンクールに挑戦したことを今でも覚えています。あれから20年、多くのショパンの作品を弾いてきました。私にとって作曲家の中でもショパンというのは独特だと感じています。

前回の出場経験を生かし、ショパンが愛したポーランドの地で彼の作品を演奏できることに喜びを感じています。今回のショパンコンクールは私にとっては最後になるので、精一杯頑張ろうと心に決め、その日が来るのを楽しみにしています。頑張ってまいりますので、応援の程、宜しくお願いします。

古海行子さん(2005年福田靖子賞)
~一番多く接してきたショパン
ショパンへの思いとコンクールに向けて

ショパンとの出会いは、ピティナ・ピアノコンペティション課題曲で遺作のワルツ(15番ホ長調)を弾いたのが初めてです。今でも行き詰った時に弾いたりします。ショパンの曲には一番多く接しているので、やはり色々な曲を知っていて感情も入れやすいですね。特に、一次予選で弾く幻想曲Op.49は感情を込めやすい曲です。

ピアノを始めた頃は楽しく音楽ができればいいなという気持ちでしたが、高校生になってから、将来もずっと弾き続けたいと思うようになりました。小さな国際コンクールは経験がありますが、これほど大きいのは初めてです。ピアノを始めた頃は楽しく音楽ができればいいなという気持ちでしたが、高校生になってから、将来もずっと弾き続けたいと思うようになりました。小さな国際コンクールは経験がありますが、これほど大きいのは初めてです。ポーランドには予備予選とサマーアカデミーで行きましたが、何となく日本に似ているかなと思います。聖十字架教会にも何度か足を運びましたし、ワジェンキ公園にも行きました。

空き時間には

時間があれば本を読むのが好きです。テーマは様々で、今は宇宙の本を読んでいます。日常のことで悩んでいても、これを読むと「自分はちっぽけだな」と思うんです(笑)。

三重野奈緒さん(2012年G級銅賞)
~ショパンに向き合う1か月に身を投じたい
ショパンへの思いとコンクールに向けて

5年前はライブストリーミングでコンクールを聴き、ショパンに向き合える1か月に自分も身を投じたいと思いました。その後漫画『ピアノの森』を読んで、主人公がコンクールの舞台で自分がしたかったことを発見したり、自分の表現を聴衆に伝える過程が描かれていて、より強く受けたいと思いました。

最初に出会った思い出の曲は、小学5年生の時にコンサートで演奏した幻想即興曲Op.66です。その後、華麗なる大円舞曲やエチュードOp.25-1(エオリアン・ハープ)などを弾いて、どんどんショパンの世界にひきこまれていきました。ロンドOp.16など、長く弾くほど音楽の中に入っていける曲もあります。私自身はポジティブな性格なので、郷愁の色濃い曲ほど理解するのに時間がかかりましたが、今回のプログラムは青年期からOp.50以降の作品までありますので、今の自分より一歩先を行く曲を学ぶ機会にできたらと取り組みました。

ポーランドには予備予選で初めて訪れ、ショパンがいた風景を感じることができました。ロシアに侵略されていた過去や社会主義時代などを経て、西欧とは違う雰囲気を感じました。困っていたら英語で何とか助けようと声をかけてくれたり、やさしい人が多い印象ですね。

一番近くにいて、 一番遠くまで導いてくれるショパン

幼少期にショパンと出会い、その音楽の虜になった人。ショパンとの出会いが音楽の道に進むきっかけとなった人もいる。いわばショパンは、一番近くに寄り添い、成長を見守ってくれるような存在である。

同時にショパンは、たった一つの音で、遥か遠くまで想像力を羽ばたかせてくれる存在でもある。それはショパンの曲の中に、人間がもつあらゆる感情や心情が、繊細と洗練の極みで表現されているからかもしれない。その奥深さに触れ、あらためてピアノや音楽との向き合い方を考えたという人もいる。

ところで、今回の日本人出場者12名全員が、小さい頃からピティナ・ピアノコンペティションを受けていたそうだ。6名がA2級、3名がA1級、3名がB級でデビューし、その後様々な経験を積み重ね、5名が特級まで参加している。その傍らには、いつもショパンがあったのだろう。ショパンという、手が届きそうでなかなか届かない孤高の存在。今ピアノを始めて間もないお子さんも、その道の先に、いつかショパンとの本格的な出会いが待っているかもしれない。