ピティナ調査・研究

ショパン国際コンクール・後日編―音楽評論家の感想は?

一昨日、ついに第16回ショパン国際ピアノコンクールの結果が発表された。優勝したアヴディエヴァを始め、ロシア勢4名が上位を占めるという結果になった。レベルが極めて高い上、個性的な演奏も多く、何度もこのコンクールに足を運んでいる方ですら、結果予想が難しいと言わしめた今回のコンクール。この結果やコンクール全体の印象について、日本の音楽評論家はどのように受けとめたのだろうか、コメントをご紹介したい。(結果発表前も含む)

●音楽評論家・伊熊よし子さん
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三次予選と本選を聴きましたが、18-20歳前後の若いロシアの才能が育ってきたのが印象的でした。一時期ロシアは政治経済・教育などの問題で混沌としていましたが、それを乗り越えて、こんなに若い才能が育ってきた。もう、弾けるという段階を超えていますね。年齢は関係なく、ロシアの台頭が特徴だったと思います。

一方で日本人は三次予選に一人も残りませんでした。これは大きな問題だと思っています。時間はかかりますが、音楽に関係している全員が考えなければならないことですね。
5年後のショパンコンクールや次のチャイコフスキーコンクールということではなく、もっと先を見て、今後どんなピアニストを育てたら良いのか、国際的に活躍できる、心を打つピアニストが日本から育つにはどうしたらよいのか、それを考える時期に来ていると思います。

また一方では、ヨーロッパ勢が多く残りました。皆さん根本的に音楽の基礎ができている上、表現力と個性があって自信に満ち、それが表現とつながって説得力がありました。そういうものがないと、このステージでは通用しないと思います。審査員のメンバーは真摯に人生を音楽に捧げている方々がずらっと並んでいる。そういう方が彼らをどう評価するのか結果が楽しみです。このような様々な面が見えた2010年のコンクールだったと思います。
(10月19日)

●音楽評論家・萩谷由喜子さん
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三次予選を聴いた時、このステージに残った方は持っているものが深く、質が高いと思いました。タイプは色々ありますがそれぞれ深みがあり、また様々なチャンネルを持って、曲に応じて最適なことができていると感じました。ずっと応援していたのはインゴルフ・ヴンダーとフランソワ・デュモンで、三次・本選と聴きましたがやはり本物の力を持っていて、そうした一朝一夕で築けない底力がファイナルの協奏曲に出ていて嬉しく思いました。
また公式ピアノにファツィオリが入ったということで、ピアノの観点でも今までと違う展開になりました。(ファツィオリはトリフォノフが選択)弾きこなせる力がある人がきちんと選んで弾きこなしていましたね。アヴディエヴァ(ヤマハ)、ヴンダー、デュモン(スタインウェイ)も良かったですね。自分のピアニズムに合ったピアノを選び、楽器から最高のものを引き出していたのには関心しました。
今回のコンクールは、日本のピアニストがどう学んでいったらいいのか、色々なヒントが詰まっていると思います。日本人の皆さんに関しては残念だと思いますが、今後プラスの勉強材料にして考えていければいいかなと思います。(10月20日結果発表前)

●ピアニスト・音楽評論家 下田幸二先生
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優勝したアヴディエヴァに関しては、例えば二次予選のノクターンの作り方で、cis-mollの暗いノクターンからDes-durの明るいノクターンに移る時にアップテンポしていました。意図的なのか本人に尋ねたところ、意図してアップテンポしたと。「1曲1曲を弾く時と2曲続けて弾く時は違っていていい」と答えていました。また木枯らしエチュードや、協奏曲もあえてテンポを抑えてディテールを見せていくなど、非常によく考えていましたね。コンクールにはたくさん出ているけど、ショパンがこんなに素晴らしいことが分かって逆に驚いたというくらい今回は勉強したと、自信を持って言っていました。それが正当に評価されて良かったと思います。ソナタ2番も堂々と最初に戻って繰り返していましたが、エキエル版を信じてやったそうです。自分の信じ方が音楽に出ていましたね。2位のルーカス・ゲニューシャスは三次予選のエチュードop.25の素晴らしい完成度や、こういう風に弾かなければというのがまだ若いのに分かっていて、それが自分の才能と結びついている。一方、コントロールしてやることは全てやったヴンダーも2位。そして3位のトリフォノフは一種天才的なことができますが、感性で流れて弾いてしまう部分はある。全体的にバランスの良い結果になったと思います。ボジャノフは彼のパフォーマンスは好きです。(一番ショパンの精神に近づけたと思うのは?)クルティシェフが一生懸命やっていたと思いますね。(10月20日結果発表後)

  • ビデオインタビューより抜粋
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