ショパン国際コンクール・会場編―先生方&聴衆の感想より
実力が伯仲する今年のショパン国際コンクール。日本からいらした先生方や聴衆の方々に、二次・三次予選の感想をお伺いした。
ショパンコンクール入選者・審査員、そして今回は聴衆としてワルシャワにいらっしゃったショパン協会会長の小林仁先生。「審査員の顔ぶれが様々な国籍になり、違う解釈を受け入れるようになってきたと思います。(その正否は)難しい問題ですが、国際コンクールという銘打つのであれば、ポーランドの価値観に偏らないというのは良い傾向だと思います。」
「今回は二次予選から聴いています。日本人が三次予選に行けなかったのは残念ですが、色々考えさせられました。ヨーロッパの正統派の品格あるショパン、アジア・米国勢の勢いとスウィング感に圧倒されました。日本人は実にきちんと弾いていましたが、もう一つこちらに訴えかけてくるものが足りなかったかなと思いました。今後どうしたらよいか、私自身もとても考えさせられ、勉強になりました。」
「世界中から集まってくるピアニストを聴いて、それぞれ個性を上手に出していらっしゃるなと思いました。日本の方々は「きちんと弾かなくては」という意識が強いかなと感じました。やはり、自分のアイデンティティを良くも悪くも強烈に印象づけられた人だけが残っていると思います。今回はコンクールの合間に、ワルシャワの街中を駆け巡りました。ここには素晴らしい伝統があり、ポーランドの方々も勤勉で品格があり、それが音楽として育ってきたのだということが分かりました。」
「(二次・三次予選を聴いて)ソルフェージュ教育の違いを感じました。例えばロシア人の音が多層的なのは、四声体をバランスをとって聴く耳があるからですね。またイタリアのレオノラ・アルメリーニはベルカントで息の長いフレーズを持っています。こうした縦と横のメロディの整理は、聴音能力と関係があります。今日本でアナリーゼが普及し始めていますが、転調するにしても「この音で色彩が変わるんだ」ということが分かる、そんな知性と感性の両方で捉えて演奏に結びけるようなアプローチが大事だと思いました。フランスのフランソワ・デュモンなども、1小節の中にいくつもの和音の転調を感じる能力がある、それも上だけでなく層で感じている、つまり多層的な音を聞き取る和声能力があります。また楽譜を読んだ時の読みが深いですね。
日本の皆さんも、素質はほとんど変わらないと思います。もちろん住んでいる建物や宗教・食生活などの違いはありますが、それよりもアイデンティティだと思います。それがないと楽譜も言われた通りにしか弾けない。欧米では15歳くらいで一人の人間として扱われていますが、そこが最も大事だと実感しました」
「2005年度は予備予選から聴いていました。(今回は二次・三次予選)今回は個性的な方が多くて、前回とも違い、とても楽しく聴いています。比較的民族色が強いマズルカなどは演奏者の国特有のリズム感が感じられました。今回は前回より年齢層が高く、経験豊富な方が多いので、その分素晴らしい演奏が多いように思います」