ショパン国際コンクール第二次予選・4日目
ロシアのニコライ・コジャイノフ(Nicolay Khozyainov)は会場でも大人気。動と静を上手に使い分け、曲想に巧みに陰影をつける。ポロネーズop.44はダイナミックに、バラード2番op.38は性格の違いを明確に描き分け、ワルツop.42は軽快に、各曲の特徴を引き出す音色と音質を兼ね備えている。それが端的に現れたのはマズルカop.50。特にno.3は音の運び方に気品があり、軽快に踏まれるマズルカのステップそのものだった。その他に前奏曲op.45、ボレロ。(使用ピアノ:ヤマハ)
メイ・ティン・スン(Mei-Ting Sun)は、アピールポイントをよく押さえたプログラム構成と演奏。バラード4番op.52は正攻法で上手にまとめる。ワルツop.34-3で軽やかにリズムを刻んだ後、演奏会用アレグロop.46で華やかさをアピール。即興曲op.29は音の質感や重量を巧みに変化させながら様々な表情をつける。マズルカop.50は細部に神経が行き届いた演奏。一音一音の音の配置、音量、音質など、全てに配慮しながらも、手の内で転がしているような余裕を感じる。no.3はコーダ前で強めにルバートをかけた後、さっと終わる。素晴らしい集中力を見せた。その他にポロネーズop.53。(使用ピアノ:ヤマハ)
マルシン・コジャクは(Marcin Koziak)は一次予選同様に大きな音楽作りをするが、幻想曲ではそれがやや大味に。しかしマズルカop.33は熱く語るかのようにメロディを思い切り歌わせる。no.3も陽気に生き生きと、no.4はリズムを強調してメリハリをつける。バラード4番op.52は歌い方にロマンティシズムがある。最後のポロネーズop.53は英雄のような若々しさと猛々しさに満ち溢れ、特にグランディオーソからは音の濁りも恐れずペダルを多用し、迫りくる軍隊のような効果を劇的に演出した。その他にワルツop.34-1。(使用ピアノ:スタインウェイ)
一方、ヤシェク・コルトゥス(Jacek Kortus)は、バラード1番op.23はやや息が詰まったような印象になったが、マズルカop.59は自然でいながらよく練られていた。自然なリズム感が印象的。幻想曲も落ち着いた冷静な音楽の運びで、最後のポロネーズop.53は力強く締めくくった。その他にワルツop.34-1。(使用ピアノ:スタインウェイ)
イリヤ・ラシュコフスキー(Ilya Rashkovskiy)は、細部の作りこみよりも美しいメロディラインを重要視する印象。一次予選と同じく、全ての曲において美しさを追求する。フレーズがややフラットになることもあるが、安定した基礎技術がなせる美麗と気品は、ショパンの演奏において重要であることを改めて思い出す。それが最も生かせたのはアンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズ、ワルツop.34-3、スケルツォop.39だろうか。その他にマズルカop.59、バラード4番op.52。(使用ピアノ:スタインウェイ)
日本の渡辺友理さん、岩崎洵奈さんも大健闘した。
渡辺友理さんは心に秘める情熱を、時に大胆に、時に抑制しながら曲に投影する。幻想曲ではテーマを力強く堂々と歌い、中間部はしっとりと。そのコントラストが音楽の推進力になっている。アンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズでも、アンダンテ・スピアナートの呻くような左手や、ポロネーズで次第に情熱が増していく様が印象的。その迸る情熱が抑制された前奏曲op.45は、美しさのエキスが詰まったような演奏だった。その他にマズルカop.24、ワルツop.42。(使用ピアノ:ファツィオリ)
岩崎洵奈さんは、ワルツop.42の3拍子のステップが彼女にぴったり。軽やかに鮮やかにステップが踏まれていく。幻想曲やアンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズでは、彼女の繊細な情感がよく生かされた。特に後者は、ポロネーズでの各パッセージが美しく響く。その他にマズルカop.59、バラード3番op.47。(使用ピアノ:スタインウェイ)