ショパン国際コンクール第二次予選・2日目午後
2日目午後は、全員アジア系ピアニスト!しかし個性は様々、アプローチも様々で興味深い。ではその模様から。
一次予選でバラード4番など素晴らしい構築力を見せた韓国のダ・ソル・キム(Da Sol Kim)。二次予選はやや作りこんだ濃厚な表現が目立つ。スケルツォ2番op.31、ロンドop.16、アンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズop.22の間に、ワルツop.18とマズルカop.59を挟む構成。スケルツォ2番は第二テーマの繰り返しでためにためて一気に激しさを帯びた後、静かなトリオへ。再現部も一瞬の静けさを作り、一気に嵐のようなコーダへ持ち込む。この手法はアンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズの最後にも使われた。ワルツはアーティキュレーションが明確で音もクリアに出し、歯切れの良い軽やかな舞踏を感じさせる。が、いきなり再現部前で和音を強打、流れを寸断してしまったのは疑問。ロンドは序奏で全て語りきるかのように、極めて濃厚な表情をつける。続いてのマズルカはマズルカのリズムを強調したり(no.3)、最後はクレッシェンドを強調してドラマティックに終わる(no.4)。曲によって是非は分かれるが、どんな小品であっても濃い陰影をつけようとする心意気を感じた。(使用ピアノ:スタインウェイ)
一方、須藤梨菜さんは自然な美しさが魅力である。マズルカop.33は心地よい拍感で安心して聞ける。no.2は快活に、no.3はテンポを落としてしっとりと深い世界を描く試みが見られる。各曲の性質を把握し、自然な曲想に仕上げる。バラード4番op.52も丁寧で美しい。前に向かう推進力をもう少し感じられるとよいと思われたが、前奏曲op.45は静かな湖面を思わせるような絶品の美しさ。ワルツop.64-3はきちんとワルツのリズムを刻み軽やかに、ポロネーズop.53も軽やかにリズムを刻み、左手オクターブ連打も軽快な足取り。全体として優美であり、奇をてらわずにゆったりとした呼吸で、自然なありのままのショパンの音楽を捉えようという姿勢に好感が持てる。その他に幻想曲。(使用ピアノ:ヤマハ)
クレア・ファンチ(Claire Huangci)も清新な音で素直な演奏をする。冒頭はノクターン遺作嬰ハ短調で深い世界の表現を目指す。ワルツop.34-3は軽快さが出るが、マズルカop.24はno.1はcon animaでもやや沈みがちな音に。no.2、3も哀愁を帯びた音で、no.4で次第に音に生気が漲り、con animaにもエネルギーが満ちてくる。最後はマズルカのリズムを強調し、1作品群としてのまとまりを見せて締めくくった。アンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズop.22は、ドレスの首元から流れる長いスカーフのごとく優雅で美しく、力強いポロネーズとの対比がしっかりつけられる。特に高音部の音が美しく響き、細かいパッセージでも印象づける。その他にバラード1番op.23(使用ピアノ:ヤマハ)
その二人と音質・アプローチとも異なるのが、台湾のチン・ユン・フー(Ching-Yun Hu)。冒頭はロンドop.16で始まり、光を宿した音をうまく配分して煌びやかに。マズルカop.59は一転、陰のある音で内省的に迫る。拍感が独特でマズルカではやや難しい印象を残したが、no.2左手の野太いメロディの歌い方などは力強い民謡を想起させる。スケルツォ4番op.54は心の内面を映し出すような演奏。アーティキュレーションをあまり明確につけず音が多少もやっとしているが、痛みや孤独といった心情が吐露されているようである。ワルツop.42はややリズムが重ため。ポロネーズop.53は再現部で音に光が戻り、プログラム全体を通して聞くと、心の旅を終えて再生した感覚を覚える。(使用ピアノ:ヤマハ)