ピティナ調査・研究

ショパン国際コンクール・第二次予選1日目午前

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ジンドブレ!(ポーランド語で「こんにちは」)

いよいよショパン国際コンクール二次予選がスタートした。ポロネーズ、マズルカといったポーランド特有のリズム感が問われる課題が登場するが、このステージがもしかしたら一番難しいかもしれない。一次予選とはまた違った印象を残すピアニストも出た。二次予選の模様から。

写真)会場で毎日配布される日刊紙「Chopin Express」!また改めてご紹介予定。

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ミロスラフ・クルティシェフ(Miroslav Kultyshev)は、マズルカ、ワルツ、ポロネーズなど各ジャンルの特徴をよくとらえ、そのリズムパターンを強調しながら音楽の面白さを引き出していく。ポロネーズop.44では、同じ抑揚でポロネーズのリズムを打ち鳴らすことでリズムの特性を強調する。ノクターンop.27-1は左手の滑らかな伴奏にのせて、右手はベルカントを意識してか朗々と歌う。であればもう少しドラマがあってもよいかもしれない。ワルツop.42は左手にやや重さが残る箇所もあったが、全体として軽やかに、ノクターンの歌わせ方とは変えている。マズルカop.24は3拍目にアクセントをしっかりつけてマズルカ特有の付点リズムを強調したり、旋法に配慮した色彩感を出す。最後の舟歌は左手に微妙に陰影をつけて波のような効果を出すが、音楽の作りとしては自然で比較的あっさりしている。巧者という印象。その他にノクターンop.37-2。(使用ピアノ:スタインウェイ)

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レナード・ギルバート(Leonard Gilbert)は、長く優雅なフレージングが特徴。マズルカop.59はno.1はノクターン風に歌うが、no.3はリズムが複雑になってくると少々難しい印象に。しかしスケルツォ1番op.20は冒頭からたっぷり快活に歌い、中間部もノクターン風で美しい。ワルツop.42はアーティキュレーションに変化を加えて表情をつけた。バラード2番op.38とアンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズは、比較的シンプルな構成でたっぷり歌える彼の個性が出しやすい選曲。後者は美しく柔らかいフレーズの合間に、ポロネーズのリズムを効果的に鳴らす。卒なく長所をアピールしたステージだった。(使用ピアノ:スタインウェイ))

韓国出身のお二人はいずれも第一次予選で、上手な自己演出が印象に残ったが、第二次予選ではポーランド特有のリズムに少々苦心したようだ。
ヒュン=ミン・ス(Hyung-Min Suh)は、一次予選と同じく小品を挟んで前後に大曲を置き、独特のフレージングや歌い回しを印象づけるプログラム構成に。最初の幻想曲では細かい箇所がやや雑になったがメロディーを美しく歌うのは得意で印象づける。ワルツop.34-1、マズルカop.24ともリズムがやや重たくなったが、op.24-3ではリズムの特徴をしっかり出そうという試みが見えた。no.4はメロディを重視した作り。アンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズは、流れるようなアンダンテ・スピアナートが美しい。ポロネーズは抑制の効いた音色で始まり、最後まで控えめな表現だった。一次予選で見せたリズム感の良さや勢いは、即興曲1番op.29に生かされていた。(使用ピアノ:スタインウェイ)

ペン・チェン・ヘ(Peng Cheng He)もちょっとした節回しに優雅なセンスを感じる。一方踊りのリズムは少々難しい印象で、マズルカop.50は少しリズムが重たい。ワルツop.64もリズムが正確ながら揺らぎが少なく、no.1はちょっと真面目な子犬のワルツに。no.3も躍動感がもう少し欲しいところ。ポロネーズop.44は中間部は大変美しく歌い上げたが、全体的に抑揚が控えめでポロネーズらしいリズムの推進力があまり強く感じられなかった。アンダンテ・スピアナート・・であれば彼の個性がさらに生かせたかもしれない。他にスケルツォ2番op.31。(使用ピアノ:スタインウェイ)


<会場でキャッチ!>一次予選を聴いたご感想
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●石井なをみ先生(左・一次予選初日から)
「やはり東洋と西洋とで、立体感や色彩感が違うなと思いました。東洋人は真面目できちんとよく勉強して弾いていますが、あまり'しゃべらない'。普段の食生活や文化背景が違うからでしょうか、やはり三つ子の魂だなと感じました。一次予選を聞いた中では、ニコライ・コジャイノフ(ロシア)、インゴルフ・ヴンダー(オーストリア)、コジャク(ポーランド)が印象に残っています。」

●中西利果子先生(右・一次予選初日から)
「ノクターンやマズルカなど音が少なくなるにつれて、やはり本来の言葉が出てきますね。日本語や中国語しか話せない我々とは根本的に違うという気がしています。今弾いたロシアの方(クルティシェフ)が素晴らしかったのですが、ここに来て初めてポーランドとロシアは近いことを実感しました。歴史が彼らの音楽の内側に出てくる、そんな印象がありました。
昨日参加したショパンツアーでポーランド人のガイドさんから聞いたのですが、ショパンは決していつも憂鬱な顔をした暗い性格ではなかった。快活で冗談が好きで楽しい人だったことは、土地の人は皆知っているそうです。そういった面がアジアのピアニストからあまり出てこないのが、ちょっと残念にと思いました。」