ショパン国際コンクール・街中編 ―ショパンの眼、ショパンへ注がれる眼
今年3月1日、ワルシャワ市内のショパン博物館が新装オープンした。ショパンの残した自筆譜、家族や友人と交わした書簡、ショパンや友人の肖像画や似顔絵、ショパンの遺髪なども展示されている。パリの自宅サロンも再現され、プレイエル・ピアノや家具などにショパンの美意識が感じられる。
その美意識の反映だろうか、ショパンの友人には画家や画才のある人が多い。ショパン自身も画才があった。青年時代にはカリカチュア(右画像)を何点か書き残しているが、その筆致は被写体へのユーモアと愛情が感じられる。
青年ショパンが恋に落ち、婚約したマリア・ボジンスカによる有名なショパンの肖像画は、彼女自身の繊細さと慎ましさが目の前にいる恋人に投影されていて、彼女の儚げな息遣いまで聞こえてきそうだ。ジョルジュ・サンドは小説家であると共に絵も得意で、ショパンや、ノアンを訪ねてきた友人の画家ドラクロワなどを描いている。どれも特徴をよく捉えていて面白い。二人の共通の友人であった歌手のポーリーヌ・ヴィアルドは、'新聞を読むショパン'を鉛筆のように細くユーモラスに表現している。そして友人のドラクロワは歴史に名を残す巨匠。誰もが知るショパンの肖像画は、現在ルーブル美術館に展示されている。
さらにサンドの息子モーリスも画家であり、マヨルカの風景やノアンの生活など当時の風習を伝えている。そのモーリスが、マヨルカ島のサンド一行を描いた絵が残っているが、サンドとショパンが腕を組んで歩いている様子を背後から描写している。この絵に留められている二人の姿は、何だか微笑ましい。
その他、ウィーン、ベルリン、パリ、ノアン、ロンドン・・・ショパンが赴いた先々で何をしたのか、その当時を偲ばせる情報や品々が多数展示してある。その中に、ショパンが持ち歩いていた小さな手帳が目に留まった。そのシンプルな手帳に簡単なメモや、さっと五線を書いて楽想の断片を書き留めたりしている。そして、なんと1948年に英国・スコットランドに赴いた際には、お墓の絵まで描いているのだ。亡くなる1年前に書き残されたその鉛筆のタッチは、あまりに真剣で切ない。
ところで、男装の麗人といわれたジョルジュ・サンドは、大変熱心な愛情を注ぐ人物であったことは知られているが、絵や手紙以外にもそれを伝えるものがある。サンドがショパンの名前「F.C.」を重ねて刺繍したクロス。薄赤の糸で丁寧に施された刺繍は、サンドの細やかな愛情に溢れていて胸が熱くなる。
<ショパン博物館>
所在地:Ostrogski Palace, 1 Okólnik Street, 00-368 Warsaw
電話:+48 22 44 16 251
Email:kasy@muzeumchopina.com
開館時間:12:00~20:00 (月曜休館)