ショパン国際コンクール・第一次予選結果の感想
昨日、第一次予選の結果が発表された。予定時刻を3時間遅れての結果発表となったが、第一次予選は総じてレベルが高く個性的な演奏も多かったため、ボーダーラインをどこで引くかが難しかっただろうと思われる。おおよその印象としては、演出効果の高い演奏、構成がよく練られた演奏、そして個性的な演奏をしたピアニストも多く選ばれている。photo© Narodowy Instytut Fryderyka Chopina
独特のインスピレーションと異彩を放つユリアナ・アヴディエヴァ(Yulianna Avdeeva)、エフゲニ・ボジャノフ(Evgeni Bozhanov)、洗練された構築力を示したダ・ソル・キム(Da Sol Kim)、ニコライ・コジャイノフ(Nikolay Khozyainov)、ヒュン=ミン・ス(Hyung-Min Suh)、ミロスラフ・クルティシェフ(Miroslav Kultyshev)、プログラム構成にも工夫があるペン・チェン・へ(Peng Cheng He)、永野光太郎、情熱的に雄弁に弾くアナ・フェドロヴァ(Anna Fedorova)、色彩感や陰影ある音色で奥行ある世界を描くフランソワ・デュモン(François Dumont)、シャン・トン(Xin Tong)、ダニール・トリフォノフ(Danil Trifonov)、正統派に近いインゴルフ・ヴンダー(Ingolf Wunder)、その中で大崎結真さんや片田愛理さんなどは繊細さが際立つ。
また即興演奏が得意だったショパンの、自由で即興的な部分を強調したかのようなピアニスト、中でもアンドリュー・タイソン(Andrew Tyson)やメイ=ティン・スン(Mei-Ting Sun)などは、大変ユニークな個性が光った。いわゆる従来のショパン像とは異なるが、一ピアニストとしての個性的な音楽解釈や表現方法が重視された結果と思われる。
一方でエリック・ズベー(Eric Zuber)や實川風さんなど、正統派のピアニストが二次進出できなかったのが、とても残念に思った。ショパンの持つ孤高の美意識を映し出すような、磨かれた美しい音と端正な演奏は、心の中にとどめておきたいと思う。
岡田奏さんはノクターンop.27-1を内省的で深みある音で始まり、ソプラノも美しく響いてくる。中間部にもう少しアジタートの表情が出るとさらに魅力的になると思われた。エチュードop.25-6、25-11はやや緊張したが、力強いタッチでまとめる。バラード4番op.52は全体的に繊細で抑制された表現の演奏だった。(使用ピアノ:カワイ)
香港のメン=シェン・シェン(Meng-Sheng Shen)は、ノクターンop.48-1は卒なくまとめるが、所々音楽を大きく捉えようとする心意気を感じる。無難にまとめたエチュードop.10-10、op.10-5に続き、スケルツォ2番op.31は序奏のバス音が次第に深く大きく奏され、物語の大きさを想像させる。要所でのミスは惜しいが、構築力を感じさせる演奏だった。(使用ピアノ:スタインウェイ)
左より田辺博美先生、石井なをみ先生、小塩真愛さん、二本柳奈津子先生、片田愛理さん、實川風さん。二本柳先生は、「一次予選5日間全員の演奏を聴いて、何年分もの収穫がありました。音色の変化も普段から意識していましたが、ここまでやらないといけないんだと思い、ピアノという楽器の可能性を感じることができました。特にロシアのニコライ・コジャイノフが、自然でいて心に残る理想のピアニストでした」とのコメントを寄せて下さった。